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コロナ禍に役立つハンズフリードアオープナーの設計製造手法に迫る(前編)デジタルモノづくり(3/3 ページ)

オフィス内での新型コロナウイルス感染症対策に役立つ製品として、手のひらを使わずに腕でドアを開くことのできる「ハンズフリードアオープナー」がある。このハンズフリードアオープナーを自社で設計製造した電通国際情報サービスの取り組みについて前後編で紹介する。

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シミュレーションを行うための3つの条件

 ここからは、シミュレーションを行うのに必要な3つの条件について、どのように導き出したのか紹介したいと思います。

荷重条件

 1つ目の条件は「荷重」です。ドアを引き開ける際の手や腕の掛け方はさまざまあり、また使用する人の手の大きさによってもさまざまな仕様、条件が考えられます。これら全てを想定するとあまりにも多岐に及ぶため、より多い頻度で想定し得る条件を複数洗い出すこととしました。平均的な手のひらの大きさは人工知能研究センターが公開している「日本人の手の寸法データ−寸法項目一覧」(図5)を参考にし、これらの大きさを掛かり得る積荷範囲と想定しました。

図5
図5 AIST 日本人の手の寸法データ(クリックで拡大) 出典:人工知能研究センター
図6
図6 ドア開閉力測定時の写真(クリックで拡大)

 また、荷重が掛かる方向は、ハンズフリードアオープナーの先端の押し、引き、下げの代表的な使用条件に加えて、ねじる方向に荷重が掛かるような、正対した状態とは違って荷重の作用点がずれることも想定します。最後に荷重値ですが、これは実測値とJIS規格の両面から、抜け漏れのないように想定条件として考慮します。JISでのドアの開閉力確認試験では50Nを条件として定めていますが、実際のドアが本当にその規格に収まっているかを確認するため、デジタルスケールを用いて、開閉力の実測を行いました(図6)。

 測定結果から、一番重いドアの場合、80Nの力が必要であることが判明しました。このままの数値を用いることも可能ですが、通常の設計では、過度な使用条件も考慮して、使い方のばらつき、つまり荷重値のばらつきを加えます。実際に力強く引っ張るなど、何度か使い方を変えてみた結果を考慮し、ばらつき分を加味して押し/引きそれぞれで100Nをまでを想定しました。また、作用点がずれてハンズフリードアオープナーがねじれるようなねじり入力になる条件は押し/引きで正対45度ずらした想定も追加します。さらに、押し荷重についてはドアを勢いよく開けたときにノブが壁に当たる場合も想定し、倍の200Nまで考慮することとしました。最後に、ノブを押し下げた際の必要荷重も測定し、同じくばらつき分を加味して25Nを守るべき荷重値としています。

 これらに破損条件も加味します。今までのシミュレーションの条件設定は、あくまでも利用シーンを想定した上での仮定でしたが、実際に試作したものを使用することによって、新しい条件が見えてくることがあります。今回、この試作品は、あるフロアのドアに先行でテスト設置をしていたのですが、設置してから数カ月後に図7のように破損が発生してしまいました。

図7
図7 破損したハンズフリードアオープナー(クリックで拡大)
図8
図8 破損が起こる際のシミュレーションの結果

 そこで、この破損が発生する状況について利用者にヒアリングを行い、その結果を基に検証シミュレーションを行いました。

 シミュレーションからは、このような破損パターンは、湾曲面の根本に想定よりも大きい1000Nもの荷重をかけたときに発生することが判明しました。図8はシミュレーションの結果になります。赤くハイライトされている箇所が最大応力発生部位になっています。そのため、今回のシミュレーション条件に、湾曲面根元部に引き方向荷重1000Nを掛ける条件も追加することにしました。


 これらの条件をまとめたのが図9図10表1になります。

図9
図9 押し/引き荷重条件の模式図。左右45度のねじり入力になる条件も追加した(クリックで拡大)
図10
図10 下げ荷重条件(左)と破損時の引き荷重条件(右)の模式図(クリックで拡大)
表1
表1 シミュレーション条件のパターン(クリックで拡大)

拘束条件

 ここまで挙げた荷重に対して、2つ目の条件になるのが「拘束」です。ハンズフリードアオープナーの使用状況に合わせてシミュレーションを行うには、部品をどのように固定するかという条件も与える必要があります。今回は、ドアノブにはめ合わせて使うことを前提としているので、ノブの一部をモデルに組み込み、その端部を拘束しています。図11の赤色で示した部分が拘束部となります。

図11
図11 拘束部の模式図(クリックで拡大)

材料条件

 3つ目の条件は「材料」です。3Dプリンティングではさまざまな材料を使用できますが、設計方針にもあるようにできるだけ安価な材料で製造することを目指しています。

 そこで、シミュレーション時に厳しめに評価できるように、安価かつ降伏応力が低めのナイロンを基本材料として検討します。採用し得る材料の中でも、剛性が弱めなものをベースとすることで、部品形状をより厳しく評価でき、かつ材料のみを変えて汎用化できるようになります。



 次回の後編では、ここまで挙げた条件に合致する形状を創出するためのシミュレーションを実施した上で、最適化した構造をどのように導き出していったか、そこから製品をどのように製造したのかを紹介したいと思います。

筆者プロフィール

千葉 栄馬(ちば はるま) 株式会社電通国際情報サービス

前職では自動車の開発エンジニアとして設計・解析の業務に従事。2018年に電通国際情報サービス入社。主に製造業向けのCAE業務コンサルティングに従事している。

電通国際情報サービスhttps://www.isid.co.jp/

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