コロナ禍に役立つハンズフリードアオープナーの設計製造手法に迫る(前編):デジタルモノづくり(2/3 ページ)
オフィス内での新型コロナウイルス感染症対策に役立つ製品として、手のひらを使わずに腕でドアを開くことのできる「ハンズフリードアオープナー」がある。このハンズフリードアオープナーを自社で設計製造した電通国際情報サービスの取り組みについて前後編で紹介する。
CAEの活用でより本格的なハンズフリードアオープナーの設計製造へ
これらから選定された形状が図4です。基本コンセプトとしては、どの角度から腕を入れても痛くないよう丸みを帯びた形状を採用しています。また、腕を引っかける部分は、ドアを開くときには滑らないよう腕にフィットしつつ、腕を抜くときには邪魔にならないような長さや角度に設計しました。このような多数の検討を重ねて出来上がった形状を基に、ようやく3Dプリンティングにて試作し、設置するところまでこぎつけることが出来ました。
しかし、ここまで説明してきたハンズフリードアオープナーの製作プロセスでは、ISIDオフィスのドアノブや居室環境に合わせて設計、試作しただけに過ぎません。強度や剛性、コストといった要件を基に設計したわけではないのです。そこで、普段ISIDがお客さまを支援させていただいているのと同様に、CAEを活用し、さらに強度や剛性を向上させる改良に挑戦することにしました。
CAEとはComputer Aided Engineeringのことで、コンピュータ上でのシミュレーションを用いて製品設計、製品性能を検討するエンジニアリング作業のことを指します。CAEを用いれば、ある条件や方針に従って、最適な設計構造を創出することも可能になります。今回はCAEで実現したい設計方針を以下の3点に定めました。
- 3Dプリンタで製造するためパーツの体積は増やさずに強度を上げたい
- 腕を当てる部分やドアノブとの接合部の形状は変えない
- 人の目を引いて使いたくなるような格好良い形状にしたい
1.は、やはりコスト面を考慮した設計方針といえるでしょう。3Dプリンティングによる製造では、使われる材料の質量分だけ純粋に部品コストとして積まれてしまうことを考えると、できるだけ軽量でありつつ剛性や強度も担保できるような形状がより良い設計になります。また、ベースデザインより軽量化することで、CAEの有効性を前面に出したいという狙いもあります。
2.は、使用感や取り付け要件になります。先述のようにスムーズな使用感や一番汎用性のあるドアノブ形状に合わせているといった既知の検討事項、いわば製造制約条件が既に課されています。その制約を守りつつより最適な形状を創出するという、まさにCAEの土俵と言っていいかと思います。
最後の3.は意匠設計の観点です。強度を上げる方法として最も一般的な方法は、弱い箇所に梁を巡らせる手法ですが、この手法による造形物はあまり人の目を引くものではありません。そのため3Dプリンティングのメリットである「複雑構造の製品への適用」を用いて、洗練されたデザインながら部品としての役目を果たすという、いわばいいとこ取り製品の製造を目指しました。
以上の方針を基に、要検討事項をシミュレーションに落とし込んでいくのですが、実物での考慮すべき事象とシミュレーションの観点の両側面から考えることが、CAE検討のフローを考えていく上で非常に重要になります。
想定し得る使用状況やハンズフリードアオープナーを取り付けるドアそのものの重量、材料特性などを条件として洗い出し、さらにその条件がシミュレーション上で再現できるのか、また、シミュレーションができたとしても3Dプリンティングによる製造で作れるものなのか、といった生産性まで考慮して1つの検討フローが成立してきます。つまり、一気通貫での検討が今後のシミュレーションの精度として影響してくるのです。
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