サブ6解禁でさらに期待高まるローカル5G、コストに見合った価値づくりを急げ:MONOist 2021年展望(2/2 ページ)
民間での商用サービスが始まった5Gだが、企業や自治体などが5Gを自営網として利用できる「ローカル5G」にも注目が集まっている。2020年末に6GHz以下の周波数帯であるサブ6やSA構成、屋外での利用が利用可能になる法整備が行われ、ローカル5Gへの期待はさらに高まっているが、その導入コストに見合った価値づくりはまだこれからだ。
2021年からはサブ6、SA構成、屋外利用が可能に
先述した通り、2019年末に法制化されたローカル5Gは、ミリ波帯である28.2G〜28.3GHzの100MHz幅にとどまっていた。このため、屋内でしか利用できない上に、通信範囲も半径100〜200m程度にとどまるという制限がある。通信の制御方式も、制御信号に既存のLTEを、データ送信に5Gを用いるNSA(Non Stand Alone)構成を利用する必要があった。これらの制約もあってか、2020年にローカル5Gに取り組んだ国内企業は、通信と関わる機器やサービスのベンダー、SIerにとどまっていたイメージもある。
しかし2020年末には、国内におけるローカル5G利用について、ミリ波帯、NSA構成、屋内という制限が取り払われることとなった。総務省が2020年12月18日、ローカル5Gの使用周波数帯を拡張するための、関係省令及び告示を公布、施行し、免許申請の受付を開始したのだ。この周波数帯拡張では、サブ6(Sub-6)と呼ばれる6GHz以下の4.6G〜4.9GHzを加えるとともに、ミリ波帯でも28.3G〜29.1GHzが追加された。これによって、ローカル5Gとして使用可能な帯域幅が100MHzから1200MHzと大幅に拡大したのである。
また、サブ6を利用できることで、電波の伝搬範囲も大きく拡大することになる。ミリ波帯では100〜200mだったが、サブ6は3倍以上の約700mに拡大する。そして、今回の周波数帯拡張のうち4.8G〜4.9GHzは屋外利用が可能となっており、サブ6によって広がった広い電波伝搬範囲を生かしやすくなるというわけだ。さらに、5Gの3大特徴である「超高速通信」「超低遅延」「多数同時接続」を享受するのに必須となる、制御信号とデータ送信ともに5Gを用いるSA(Stand Alone)構成も利用可能になった。
これによって、ローカル5G事業に参入する企業はさらに増えることになりそうだ。実際に、NTT東日本と異なり、自身が主体となってローカル5Gの免許申請を行っていなかったNTT西日本も今回のタイミングで申請を行っている。
これまでもLTEを自営網で利用できるプライベートLTEの事業展開を進めてきたパナソニックは2021年1月18日、ローカル5Gの実験試験局免許の取得を発表している。傘下のパナソニック システムソリューションズ ジャパンが、パナソニックの佐江戸事業場(横浜市都筑区)内に開設したローカル5Gラボに、4.6G〜4.9GHz帯を用いるSA構成のローカル5G環境を構築した。
製造業から熱い期待がある一方で、コストに見合った価値構築はこれから
JEITA(電子情報技術産業協会)が2019年12月に発表したローカル5Gの国内市場規模は、2020年から立ち上がり始め、2025年には3000億円に達する見通しだ。同じ2025年におけるグローバルのローカル5G市場規模は2兆7000億円となっている。この巨大になり得る市場で多くの割合を占めるのが製造業だ。富士通によれば、2020年9月末時点まででローカル5Gを切り口とした問い合わせが700件以上あったが、スマートファクトリーを想定した製造業からの要望が多く、全体の4分の1以上を占めたという。
その一方で、取り組みが始まったばかりということを鑑みても、導入コストはかなり高いと言わざるを得ない状況だ。NECが2019年12月にローカル5G事業への本格参入を発表した際には「1プロジェクト当たり数千万〜数億円の投資規模」と述べており、中堅以下の製造業や中小の自治体がローカル5Gの導入を検討するのが難しいイメージは強い。
ローカル5Gのラボ開設などがある程度進んだ2020年中盤以降は、この導入コストを抑えるための提案も出てくるようになっている。富士通は、初期費用100万円、月額40万円からという価格で自営無線システムの通信と管理の機能を利用可能な「プライベートワイヤレスクラウドサービス」を投入する方針を示しており、NECも2020年10月開催のイベント「Local 5G Summit」のパネルディスカッションで「ローカル5Gの普及の目安は、導入コストで数百万円というライン」と述べている。
製造業などがスマート工場の実現に向けて導入する無線通信技術として、ローカル5Gと競合するのがWi-Fiである。Wi-Fiは、通信範囲が10〜50mと狭いものの、通信機器がローカル5Gよりもはるかに安価であり、導入に向けたハードルは低い。
そして、Wi-Fiの最新規格であるWi-Fi 6(IEEE 802.11ax)の理論通信速度は、5Gと同等クラスの10Gbpsとなっている。実効速度が数Gbpsだったとしても5Gに対してそん色はないといえるだろう。一方、通信機器の価格としては、産業グレードの比較的高価な製品であっても数十万〜100万円程度であり、これらで構築する無線ネットワークの導入コストは数百万円以下に収まるとみられる。NECが示した「数百万円というライン」はこれをイメージしたものだ。
ただし、Wi-Fiで使用している2.4GHz帯や5GHz帯といった周波数帯は、免許不要であるが故にさまざまなノイズが紛れ込み干渉が起きやすいという課題がある。限られたエリア内とはいえ、5Gという最先端の通信技術を独占して利用できるローカル5Gは電波干渉の問題が起きにくく、5Gの機能性に加えて、閉域網による高いセキュリティ性にも価値があるといわれている。
また、現在想定されているローカル5Gの導入コストは、現時点で利用可能な通信キャリア向けの5G対応通信機器が前提になっている。ローカル5Gの市場が拡大すれば、より機能を絞り込んだ、低コストの通信機器なども登場してくる可能性がある。
そのためにもローカル5Gの価値を知らしめていく必要があるだろう。総務省は2020年10月に「地域課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」を発表しており、19件の実証事業が行われる計画になっている。工場関連では、OKIによる「地域の中小工場等への横展開の仕組みの構築」、トヨタ自動車による「MR技術を活用した遠隔作業支援の実現」、住友商事による「目視検査の自動化や遠隔からの品質確認の実現」、NECによる「工場内の無線化の実現」の4件があり、これらの成果は製造業がローカル5Gを活用していく上での試金石なりそうだ。
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