かくして「はやぶさ2」は帰還し再び旅立った、完璧な成果は3号機につながるのか:次なる挑戦、「はやぶさ2」プロジェクトを追う(19)(5/5 ページ)
小惑星探査機「はやぶさ2」が地球へ帰還し、予定通り再突入カプセルを回収することに成功した。カプセルからはグラム単位という大量のサンプルも確認されている。まさに「完璧」と言っていい成果だ。本稿では、はやぶさ2の帰還の模様や、再び地球から旅立って挑む「拡張ミッション」、これらの技術がどう生かされていくかについて解説する。
はやぶさの技術をどう生かすのか、立ちはだかる“予算”の壁
はやぶさ2は、なぜこれほどうまくいったのか。間違いなくいえるのは、初号機の存在があったからということだ。
初号機は結果的に、イトカワの微粒子を持ち帰ることができたものの、正式には「小惑星探査機」ではなく、「工学技術実証機」である。当時、小惑星サンプルリターンは、NASAですらやったことがなかった非常に野心的な計画。本当にそんなことが可能なのか。まずは工学的な成立性を実証するため、立ち上がった計画が初号機だった。
初号機のミッションは、ご存じの通りトラブルの連続だった。往路では、リアクションホイールが故障。イトカワでは、1回目のタッチダウンで地表に不時着。2回目は成功したものの、弾丸が発射されないというミスがあった。さらに燃料漏れという深刻な事故が発生し、一時通信途絶にもなった。
小さな小惑星の探査は、必然的に未踏天体へ行くことになる。毎回、行ってみないと分からない世界を探査するという難しさはあるものの、とにかく初号機で一度やってみたことで、得られた知見は大きかった。この知見をフィードバックし、開発されたのが“本番の小惑星探査機”であるはやぶさ2だ。
実証機の初号機で課題を洗い出したことで、本番機のはやぶさ2ではトラブルを予防できた。この2機のセットで考えると、実証機→本番機という手法の有効性が証明できたといえるだろう。
はやぶさ2のサンプルリターン技術は火星衛星探査計画「MMX」に生かされるし、イオンエンジンの技術は深宇宙探査技術実証機「DESTINY+」でさらに発展される。はやぶさシリーズがまいた“種”は確実に継承されるものの、その一方で、別の小惑星を探査する「はやぶさ3」を実現してほしいとも思う。
はやぶさ2により確立された小惑星サンプルリターンの技術を、ダイレクトに活用できるのはやはり後継機となるはやぶさ3だ。同型機であれば、比較的短期間かつ低コストで開発できるし、信頼性が高い。リュウグウは平たんな場所がなくて苦労したが、次ではこうした課題への対応を盛り込むことも可能だろう。
はやぶさ2では、新機能として「衝突装置(SCI)」を搭載し、リュウグウではこれが大活躍した。基本は従来と同じ手法を踏襲し、手堅くいく一方で、新しい装置を追加するのであれば、チャレンジングなことにも挑戦しやすい。これを早いサイクルで繰り返せば、技術はどんどん進化するだろう。
ただし、大きな壁となるのは予算の問題だ。JAXAには、これから有人月面探査のアルテミス計画への負担が大きくのしかかる。科学分野でも、X線や赤外線の天文衛星など、さまざまなプロジェクトがあり、小惑星探査にばかり予算は出せない、という事情がある。少ないパイをさまざまなプロジェクトで奪い合っているのが現状だ。
JAXAは、少ない予算の割にはよくやっている、という見方もできる。しかし、少ない予算で大きな成果を得ようとすれば、本来不要だったはずの苦労が生じたり、そうした無理による失敗が増えたりする。機会が少なければ、失敗を極度に恐れるようになり、チャレンジングなこともやりにくくなってしまう。
宇宙開発には、直接的・短期的な数字には表れないさまざまな効果がある。日本がもしこれからも科学技術を大きな柱にしていくのなら、せめて国力に見合うだけの投資は必要だろう。プロジェクトが完璧に成功したときくらいは、ストレートに言わせてほしい。もっと宇宙開発関連の予算を増やして、と。
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