止まらない工場へ、トヨタとNICTが無線通信のリアルタイム可視化に成功:FAニュース
NICTとトヨタは2020年11月25日、トヨタ自動車の高岡工場で無線通信のリアルタイム可視化技術と異種システム協調制御技術で、無線システムの安定化技術の実証に成功し“止まらないライン”の実現に成功したと発表した。
情報通信研究機構(以下、NICT)とトヨタ自動車(以下、トヨタ)は2020年11月25日、トヨタの高岡工場と元町工場において、無線通信のリアルタイム可視化技術と異種システム協調制御技術により、無線システムの安定化技術の実証に成功し“止まらないライン”の実現に成功したと発表した。
製造現場では、生産性向上のため生産設備の柔軟性を高める目的で、無線通信を用いた製造システムの導入が広がりを見せている。一方で、無線通信技術は、個人の生活と切っても切れないものになっており、モバイルルーターなど人に付随する無線通信が意図せず製造ラインにおける無線システムに悪影響を及ぼす場合があり、安定性や信頼性に課題があるとされていた。
こうした予期せぬ無線通信による不安定化を避けるためにNICTとトヨタでは、製造現場の無線環境の可視化に2015年から共同で取り組んできた。また、多くの製造システムの無線化が進むと、無線システム間の干渉による通信の不安定化や設備稼働への影響なども起こり得る。NICTでは、2015年から、製造現場の無線化を推進する「Flexible Factory Project」を実施しており、異種無線通信の協調制御により無線通信を安定化させるSRF無線プラットフォームの研究開発を行ってきた。
また、研究開発の成果を社会実装していくため、2017年7月にSRF無線プラットフォームに関心を持つ企業と共に「フレキシブルファクトリパートナーアライアンス(FFPA)」を設立し、技術仕様の標準化を推進。2019年9月にはSRF無線プラットフォームの技術仕様書ver.1.0を発行している。
今回、NICTとトヨタは、稼働中のトヨタの高岡工場と元町工場で、製造現場を支える無線システムの安定化技術の共同実験を実施した。
1つ目は、無線環境のリアルタイム可視化技術の効果検証で、高岡工場の稼働中の組み立てラインにおいて、共同実験を行った。この可視化技術は、アクセスポイントからの電波がどこまで届いているかを管理画面上のフロアマップに可視化するというものだ。また、事前に登録されていないモバイルルーターなどの無線端末が工場に持ち込まれた際に検出してアラートを表示し、管理者に注意喚起を行う。2019年末から、必要となる機器の設置などを行い、建屋全体の可視化に取り組んだ。その後、数カ月にわたる効果検証の結果、電波到達範囲の可視化と登録外端末の検出が可能であることを確認したという。今後、トヨタでは、製造現場での無線システム管理のため、この可視化技術を他の工場にも順次導入するという。
2つ目は、異種システム協調制御の実環境での機能検証で、元町工場において、SRF無線プラットフォームの実証実験を行った。SRF無線プラットフォームは、他の無線システムとの協調制御を行うため、無線の環境を常に監視し、適切な通信経路や通信方式を動的に選定する技術だ。今回の実証実験では、製造ラインで使われているものと同じ周波数帯の試験用通信を発生させ、この試験用通信の遅延を評価した。その結果、Field Manager(管理サーバ)からの制御により適切な通信経路に切り替えることで、遅延を大幅に低減し、100ミリ秒以下の遅延とする割合を100%に向上できることを示した。100ミリ秒以下の遅延を保証することで、無線化が検討されている製造システムの多くの安定稼働を実現できる。また、実験結果により、SRF無線プラットフォームを使用することで、実際の製造ラインに新たに無線アプリケーションを導入した際に、要求遅延レベルを満たす処理を管理サーバで行えることを証明した。
無線の可視化によって登録外の端末の持ち込みを検出し、計画外の無線の混雑を抑制することと、それでも発生してしまう突発的な干渉をSRF無線プラットフォームで回避することで、“止まらないライン”を実現できるという。「今回、これらの技術の有効性が稼働中の工場で確認できたことで、人と機械の共存する製造現場において、無線通信技術を用いた製造システムの安定稼働が可能になる」とNICTはコメントしている。
今後NICTでは、無線環境のリアルタイム可視化技術をトヨタの他の工場に順次展開し、実証実験を継続し実用化を目指す。また、SRF無線プラットフォームに関しては、実証実験の結果を生かし、工場で安定した無線通信を利活用できるプラットフォームとして実用化を目指す。研究開発および標準仕様の策定と認証制度の整備を推進する。
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