スマート化で“空洞化”を埋める、カシオ計算機が描くモノづくり力の復活:製造業×IoT キーマンインタビュー(4/4 ページ)
カシオ計算機では、モノづくり全工程の「スマート化構想」により、社内におけるモノづくり力の再強化に取り組む。なぜ「スマート化構想」を推進するのか。どのような取り組みを行っているのか。同プロジェクトを統括するカシオ計算機 執行役員で生産本部長の篠田豊可氏に話を聞いた。
製造現場の理想像は「無人化」
MONOist 多品種少量生産の場合は費用対効果の面で自動化領域を増やすことが難しい面もありますが、自動化領域を広げるためにどういうことが必要だと考えますか。
篠田氏 工場の中で可能な自動化は順次進めていくが、大きく広げていくためには自動化を前提とした製品設計が必須になる。ただ、ニーズの多様化が進む中でエンドユーザーごとに差を求める部分が出てくる。どの領域で自動化を前提とし、どの領域はエンドユーザーごとの違いにするのかという全体を俯瞰した設計の切り分けが重要になってくる。多くの製品で共通するコアとなる部分については自動化ができると思うが、製品の本質的な価値に直結する領域なので、自動化をどのように実現するのかを慎重に検討している。
現在の自動化用の機械はある程度以上の数を前提としたものが多いが、自動化設備も多品種少量生産に合う、小型でレイアウト変更が容易に行える設備が求められている。また、既存の自動化設備を生かすための段取り替えの負担が増しているが、この段取り替えを行うための自動化設備など、自動化領域拡大のためのアプローチはいくつか存在する。これらを自社内で作るのか、設備メーカーとの協力で進めるのかは検討しながら進めていくことになるだろう。
ただ、いずれにせよ、工場で多品種少量生産が求められる比率は高まる一方で、人手不足や人件費の問題、COVID-19の影響などを複合的に考えるとオートメーション化は進めざるを得ないと考えている。
MONOist 理想の製造現場は「無人化」でしょうか。それとも、製造現場に人手は必要だと考えていますか。
篠田氏 将来的な理想としては「無人化」になるのではないだろうか。製品の価値として響く感性価値や質感などを作り出す意味で人の要素は必要だが、生産作業においては、デジタル技術の部分で機械化できる領域が増えてきている。今は難しかったり、費用対効果が合わなかったりする部分でもいずれは自動化できるのではないかと感じている。
MONOist 自動化領域の拡大のためには設計と製造など部門間連携なども重要になると思いますが、どういう形が理想だと考えますか。
篠田氏 「経営・事業運営」の中でも少し触れたが、製品ごとに損益が見られるようなプロダクトライフサイクルを1つのプロジェクトとして扱うような仕組みが必要だと考えている。そうなると、部門ごとの壁というよりも製品モデルごとにトレースができ「設計と製造をどう組み合わせて収益を生み出すか」という形で考え方が変わってくる。本当の意味でプロダクトライフサイクルマネジメントが行えるようにしたい。
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