検索
連載

革のベルトからバイワイヤまで、ブレーキの発展の歴史を振り返るブレーキの歴史と未来(1)(3/3 ページ)

ブレーキの歴史を振り返ると、自動車の進化や外部環境の変化によって課題が生じ、そうした課題を解決するために発展を遂げてきたことがよく分かります。第1回はブレーキが発展してきた歴史と今後の展望について解説します。

Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

ブレーキの中で少しずつ進む電動化

 ここまで紹介してきた油圧ブレーキシステムの中で電動化が進んでいるのは、エンジン負圧を用いていたブレーキブースターと、停車時に車両が動かないように保持するためのパーキングブレーキです。ブレーキブースターの電動化が進んだ理由は、パワートレインの高効率化や電動化の進展と、回生協調ブレーキの普及の2点です。パワートレインの高効率化により、従来のブレーキブースターで用いていたエンジン負圧を得ることが難しくなり、さらに電気自動車(EV)など駆動力がモーターになるとエンジン負圧が全く得られなくなります。そのため、負圧を発生させる電動バキュームポンプや、電動のブレーキブースターが採用されるようになりました。

 また、回生協調ブレーキが普及する中で、自動車メーカーには「回生協調中のブレーキ操作がしにくい」という評価が多く寄せられました。そこで、ドライバーによるブレーキ操作と、実際にブレーキ力を発生させる機構を切り離したブレーキバイワイヤのシステムが開発されています。電動ブレーキブースターでは、倍力機能をモーターや電動ポンプを用いて実現しています。ドライバーの操作とは切り離して制動力を発生させられるため、自動ブレーキや回生協調ブレーキを高度に実現できます。また、アダプティブクルーズコントロール(ACC)にも、ブレーキの電動化が貢献しています。

 さて、車両の停車状態を維持させるためのパーキングブレーキは、手でレバーを操作したり、足でペダルを踏んだりしてケーブルで引っ張って駆動させるものが一般的でした。現在は電動パーキングブレーキが広く普及し、ドライバーがボタンを押すだけでモーターがパーキングブレーキをかけてくれます。パーキングブレーキは、電動化することで他の機能と協調駆動できるようになりました。例えば、電動パーキングブレーキが作動している最中にアクセルを踏むことで、自動的に電動パーキングブレーキを解除してスムーズに発進できます。

 これらの電動化されたブレーキシステムは当初、一部の高級車のみに採用される機能でしたが、現在では比較的安価な軽自動車の中でもこれらの機能を搭載しています。今後はさらに普及していくでしょう。

将来のブレーキシステムは

 ここまで、実用化されているブレーキの現状を紹介してきました。始めは革のベルトだったものが、他の製品が進化したり、社会情勢が変化したりすることで、大きな変化を遂げています。この先、将来のブレーキシステムはどのようになっていくのかを、ブレーキシステムの機能と構成に分けて紹介します。

 現在は、自動車を止めることがブレーキの主な機能ですが、カーブなどで曲がるためにブレーキが使われるなど用途が広がっています。例えば、ステアリングが故障してしまったときに車両の1輪にだけ適切な強さのブレーキをかけることで、意図した進路変更がスムーズに行える、といったものです。

 今後はこのように「止める」以外の機能にブレーキが活用される機会が増えていくでしょう。また自動運転の普及により、今よりも厳しい条件下で自動ブレーキが活躍することが求められます。そのためには、ブレーキ応答性の向上や、車輪ごとにブレーキ力を細かく調整することが必要です。


「ペダルを踏んで止まる」の裏側でさまざまな進化が(クリックして拡大)

 将来求められる機能を実現していくために、これまで広く使われていた油圧式ブレーキシステムは採用されなくなり、各車輪についた電動ブレーキが細かく各輪のブレーキ力をコントロールするようになると考えられます。従来の油圧式のシステムでは、ブレーキフルードの経年劣化によりブレーキ性能が低下していくため、定期的に交換が必要です。交換作業は自動化できず、大体30分程度の時間がかかります。メンテナンス性を高めることも、自動運転時代に重視されるのではないでしょうか。

 ブレーキフルードを使わなくなることは環境にもよいですが、大きな課題もあります。各車輪の電動ブレーキがどう動くかは、統括して指示を出す部品が必要です。そこから各輪に対しては通信で情報が伝達されますが、緊急ブレーキが必要な際に、この通信速度や電動ブレーキが必要な応答性を発揮できなければなりません。まずは現行ブレーキシステムと同等の応答性実現を目指し、その後は自動運転で求められる機能を実現するために高応答のモーター採用や、次世代通信規格のCAN FDやFlexRayの活用が検討されるでしょう。

 他の課題もあります。もし自動ブレーキを駆動できなくなるような故障が生じた場合、現在のブレーキシステムではドライバーが思い切りペダルを踏み込むことで必要最低限のブレーキをかけられます。しかし、ブレーキフルードを使わないシステムでは部品が故障した場合、従来はブレーキフルードが担っていたドライバーの踏み込んだ力をブレーキ力に変換する機能が失われます。

 どのように走行中の自動車を安全に停車させるのかは大きな課題です。電源系統を分けて一部の電動ブレーキを冗長化したり、パワートレインなど他の部品に緊急時の減速機能を担わせたりしなければ、ドライバーが操作するブレーキペダルから各輪までのブレーキフルードはなくせないでしょう。

 今回は、自動車のブレーキが発展してきた歴史や将来動向を紹介しました。ブレーキ部品の構成や機能が大きく変わる際には、必ず自動車に求められる機能や社会情勢の変化が影響を与えています。次回以降の記事では、この記事で紹介したそれぞれの部品や機能に関して、もう少し具体的に解説していきます。

⇒(次回へ続く)

連載「ブレーキの歴史と未来」 記事一覧

著者プロフィール

一之瀬 隼

現役の製造業エンジニアとして働きながら、製造業ライターとして活動。経営視点を持ったエンジニアになるべく、経営関係の国家資格取得を目指して勉強中。

ブログ「悠U自適」

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

前のページへ |       
ページトップに戻る