ソフト・ハード両方で技術革新を、富士通が量子コンピュータの共同研究開始:量子コンピュータ(2/2 ページ)
富士通は2020年10月13日、理化学研究所など国内外の研究機関と共同で量子コンピュータの実現に向けて開発を開始したと発表した。量子デバイスなどのハードウェアと、アルゴリズム、アプリケーションやアルゴリズムなどソフトウェア両方の領域で共同開発を進めて、量子コンピュータ実用化の障壁となる課題解決を目指す。
ハードウェア領域は理研、東大などと共同研究
富士通はこれらの課題解決を目指して、ハードウェアとソフトウェア、両方の領域で、理化学研究所、東京大学、オランダのデルフト工科大学、大阪大学と共同研究を開始する。
ハードウェア領域においては、現在、最も実用化が有力視される「超電導方式」を用いた量子コンピュータ開発を、超電導量子ビットを世界で初めて実証した理化学研究所/東京大学 教授の中村泰信氏が率いる研究チームと共同で行う。
超電導量子回路を持つ二準位系人工原子を量子ビットとして、これに対して理化学研究所と東京大学が独自に保有する技術で制御、読み出しを行う仕組みを作る。期初の目標としては、100量子ビット級の量子コンピュータ実現を掲げる。その後、富士通研究所の材料技術やシステム技術などを組み合わせて、大規模かつ高精度な量子コンピュータ開発を目指す。
超電導方式と同時に、ダイヤモンド中のスピンを量子ビットとして使う「ダイヤモンドスピン方式」の研究開発をデルフト工科大学と共同で進める。ダイヤモンドスピン方式は、ダイヤモンド中に不純物を意図的に入れることで、ダイヤモンド中に形成されたスピン状態を量子ビットとして用いる技術のこと。通常、不純物としては窒素原子が用いられるが、今回の研究では別の物質を用いることで制御精度の向上を目指す。
「ダイヤモンドスピン方式は超電導方式と異なり、高温動作が可能になるため大型冷却器がいらない。このため、量子コンピュータの大規模化が容易だ。光を使って量子状態にアクセスできる上、離れた量子ビット間の演算も光を介して実行可能なため、ノイズの影響も低減する。ただ、現段階では基礎研究段階にとどまっており、超電導方式に比べるとより長期的な視点でのブレークスルーを狙ったR&Dとなる」(佐藤氏)
新たなエラー訂正、緩和技術の開発を目指す
ソフトウェア領域では大阪大学の他、量子コンピュータのノイズ診断に強みを持つカナダのQuantum Benchmark(QB)と共同で、誤り耐性量子コンピューティング用のアルゴリズム研究に取り組む。
富士通とQBは、NISQコンピュータ用のエラー緩和技術「Randomized Compiling」と、それを利用したアルゴリズム開発の共同開発を2020年3月から進めている。これに加えて、大阪大学 教授の藤井啓祐氏とともに、汎用量子計算に向けたエラー訂正技術とアルゴリズム開発にも取り組む計画だ。新たな誤り訂正符号の開発と、その量子コンピュータへの実装方法を研究し、量子コンピュータと古典コンピュータを連携する技術開発も進める。
将来的な富士通の量子コンピュータ開発方針について、佐藤氏は「最終的には、社会的課題解決に寄与するような量子コンピュータの開発を目指したい。短期的目標としてはNISQコンピュータに実装する実用的なアルゴリズム開発を、長期的には大規模な誤り訂正量子コンピュータの開発、実用化を目標とする。ソフトウェアとハードウェアの両面で研究を進めていく」と語った。
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