ASPINAが宇宙関連事業に参入、小型人工衛星向けリアクションホイールを開発:製造マネジメントニュース
シナノケンシは、モーター関連製品の技術を生かし、小型人工衛星向けの姿勢制御に用いる基幹部品「リアクションホイール」の開発を開始し、宇宙関連事業に参入することを発表した。
シナノケンシ(以下、ASPINA)は2020年10月12日、モーター関連製品の技術を生かし、小型人工衛星向けの姿勢制御に用いる基幹部品「リアクションホイール」の開発を開始し、宇宙関連事業に参入することを発表した。
小型人工衛星市場はベンチャー企業をはじめ民間の参入企業が増え、成長する兆しを見せている。特に人工衛星コンステレーション計画(星座のように複数の衛星で機能を実現させる取り組み)などが世界中で進められている中で、小型人工衛星の打ち上げは今後さらに増える見込みだ。コンステレーション計画で使用される人工衛星の運用期間は3〜5年と短く設定されているが、一方で現状市場に存在する多くの人工衛星構成部品は、ベンチャー企業の求める価格、納期を満たしておらず、課題となっていた。
ASPINAは、以前から宇宙関連事業への参入は検討していたが、今回市場環境に追い風が吹いていることから、正式に参入を決めたという。具体的には、小型人工衛星向けの姿勢制御に用いる基幹部品として「リアクションホイール」の開発を行う。同事業は、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)において2020年度「宇宙産業技術情報基盤整備研究開発事業」として採択されている。
リアクションホイールは、人工衛星の姿勢制御装置に用いられる基幹部品で、主にフライホイール、電動モーター、コントロール基板で構成されている。フライホイールの回転数を変動することで生じる反作用によって人工衛星にトルクを与えることで姿勢を制御する。1つの人工衛星の中に標準部品として3〜4個が搭載されているという。人工衛星はカメラを搭載し高精度で地上を撮影しなければならないため、姿勢制御は重要で、それを支えるリアクションホイールの役割は非常に大きいが、部品には小型で高信頼性、低振動などの要素が求められている。この問題を、車載や医療用部品などで培ったモーター関連製品の技術を活用し解決することを目指す。「現状の価格より約3割安くし、納期を半分にすることが目標」(ASPINA 開発技術本部 副本部長の臼井弘明氏)としている。
宇宙で使用するための実証実験などが必要になることから、開発はアクセルスペースと共同で行う。アクセルスペースは2008年創業の宇宙ベンチャーで、現在までに5基の人工衛星の開発と製造、運用の実績がある。アクセルスペース 取締役 最高ビジネス責任者(CBO)の山崎泰教氏は「人工衛星は100kg級の超小型衛星を量産してどんどん飛ばす時代に入った。しかし、従来の人工衛星は1製品ごと特殊部品を使って作るもので、基幹部品の価格が高く納期も非常に長かった。ASPINAとの共同開発ではこれらを低減することで、将来的な人工衛星市場を広げる意味を持つ」と語っている。
ASPINA 取締役 経営戦略室長/開発技術本部長の金子行宏氏は「2020年から開発をスタートし、2023年には実証実験を開始できるようにする。そして、2027年には新規打ち上げ小型人工衛星における採用数10%を目指す」としている。
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