飲酒検査を半年でクラウド化せよ、モノづくり企業タニタが挑戦したこと:イノベーションのレシピ(2/2 ページ)
2019年、タニタが最新商品として検査システム「ALBLOクラウドサービス」を開発した。iPadに接続したアルコール検知器とクラウドを連携させることで、検査者のなりすましを防ぐ顔認証機能や、検査結果のデータベースへの送信機能を実現する。「モノづくり企業」であるタニタは、いかにしてクラウド開発を行ったのか。タニタ担当者らに話を聞いた。
顧客価値を最大化するための設計
ALBLOクラウドサービスのクラウド基盤構築などを担当したアクティアの北野氏は、開発開始から納入までに残された時間は半年程度と短かったものの、実際にはかなりスピード感を持って開発を進めることができたと振り返る。例えば、タニタはアクティアと協力してALBLOクラウドサービスのβ版を開発したが、その開発は想定よりスムーズに進み、わずか1カ月程度で完成した。この時点で、現在のALBLOクラウドサービスに搭載している顔認証機能や管理者用機能など製品の基本機能は、大枠を開発し終えていたという。
「迅速に開発できた理由の1つが、デバイスを新開発することなく、既存の製品だけで最大限のパフォーマンスを発揮するためにどのような設計をすべきかを、あらかじめ両社間でしっかり検討していたことにある。メインユーザーである乗務員の利用シーンを想像して、顧客体験を最大化できるよう、使い勝手などを話し合いつつ設計の構想を固めていた。あとは顧客の意見を聞きつつ、アジャイル開発体制で製品完成まで進めていった」(北野氏)
開発時に特に気を付けたのが、顔認証機能だ。例えば乗務員の場合、アルコール検査のタイミングは乗務前と乗務後、飛行機のフライト間と3つがある。このうち、乗務後の検査は機上のコックピット内で行うが、コックピット内は常に明るいわけではなく、夜間などは暗所となる可能性がある。このため、暗い場所でも十分な精度の顔認証機能を開発する必要があった。
加えて、乗務員のITリテラシーにもばらつきがあり「真正面からではなく、斜めだったり顔の半分が画面から切れていたりする状態で撮影してしまうなど、さまざまな状況を考慮し、対応する必要があった。また、そもそも『どのように顔を映せばよいか分からない』と戸惑わせてしまう恐れもあったので、撮影画面上に人型のガイドラインを表示するなどして対策を講じた」(北野氏)。このように、想定ユーザーの業務理解を深めた上で、顧客体験を最大化する方法を考えることに最も時間をかけたという。
「コト売り」で大事なのは最適なパートナー探し
タニタは健康機器の製造を主軸に成長してきたメーカーではあるが、近年は体重計や活動量計などを通じてパーソナルな健康データを蓄積できるサービス「ヘルスプラネット」なども展開している。望月氏は「これまで積み重ねてきたブランドイメージとして、当社が販売するモノの信頼性はとても高い。一方で、製造業全体で進む『モノからコトへ』という大きな流れの中で、今後は安心安全を提供できる仕組みづくりを整備し、顧客にコト売りで提供していきたい。現段階で具体的な構想はないが、アルコール検知器についても、将来的には個人の健康管理につながる内容のものを開発できればと考えてはいる」と語った。
また、望月氏はモノづくり企業がシステム開発を伴うサービス事業を手掛ける際に必要なのは、開発のパートナー探しだと指摘する。「ALBLOクラウドサービスの場合は、当社が既に別事業で協力してもらっていたのでアクティアと組むことにした。アクティアは、事業の開発からシステム運用まで一気通貫で担当してくれて、とても助かった。開発企業によって得意分野は違う。分野ごとに最適なパートナーを選び、サービスを提供する顧客に良いものを使ってもらいたいという姿勢で開発していくのが大事だ」(望月氏)。
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