モータースポーツの見どころは順位だけではない! 「走る実験室」で磨かれる技術:モータースポーツ超入門(1)(2/2 ページ)
順位を競うだけではないのがモータースポーツの世界だ。技術競争の場でもあるからこそ、人やモノ、金が集まり、自動車技術が進化する。知られているようで知らないモータースポーツでの技術開発競争について、レースカテゴリーや部品ごとに紹介していく。1回目はF1(フォーミュラ・ワン)を取り上げる。
運動エネルギーだけでなく排気エネルギーも回収する「ERS」に
重量増やコストの高さ、安全性、そして信頼性の面からも課題のあったKERSは、2013年シーズンをもってその役目を終える。2014年シーズンからは運動エネルギーに加えて、排気エネルギーも回収する新たなエネルギー回生システム「ERS(Energy Recovery System、エネルギー回生システム)」に引き継がれることになった。KERSは運動エネルギーを回生するだけのシステムだったが、新たに排気エネルギーも利用することになったため、システム名称がERSに変更された。
ERSは運動エネルギー回生システム「MGU-K」と、排気エネルギー回生システム「MGU-H」という2つのシステムで構成されており、ICEと組み合わせることで1つのパワーユニットとなっている。以前はICEのみを供給する自動車メーカーは「エンジンサプライヤー」と呼ばれていたが、現在「パワーユニットサプライヤー」にその名が変わったのはこのためだ。2つのシステム名にある「MGU」はモータージェネレーターユニットの略で、始動や走行時の動力として加速時にはエンジンをアシストするとともに、ブレーキング時はエネルギーを回生し、バッテリーへの充電に使われる。
MGU-Kの「K」はKineticで、運動を意味する。KERSの前身ともいえるシステムだ。ブレーキング時の運動エネルギーを電気エネルギーに変換し、バッテリー(エナジーストア=ES)に送る役割を持つ。また、エナジーストアに蓄えた電力でモーターを駆動し約160馬力のパワーを生み出す役目もある。MGU-Kで生み出されたエネルギーは、ターボチャージャーの回転をサポートする役割も併せ持つ。アクセルを開けたときにコンプレッサーの回転スピードを高めることで、ターボラグ(アクセルを踏んでからパワーアップするまでの応答の遅れ)を解消している。
一方、MGU-Hの「H」はHeatの頭文字で、熱を回生するユニットとなる。通常は大気中に排出される排気熱を利用して発電機を回し電気エネルギーを生み出す。そのエネルギーはエナジーストアまたはMGU-Kへと送られるという仕組みだ。
量産車にも継がれていく技術
かつてF1エンジンは燃料と空気の量を増やしてパワーアップを図っていた。しかし、現在は少ない燃料を効率的に燃やして燃焼効率を高め、エネルギーマネジメントと組み合わせることで高出力と環境性能を両立する技術開発が求められている。
こうしたF1のエネルギーマネジメント技術は量産車にも反映されている。メルセデスAMGは2020年6月、F1のMGU-Hから技術的に“直系”となる「電動排気ガスターボチャージャー」を今後発売する最新モデルに搭載すると発表した。世界最高峰のF1技術を市販車に生かす方針を掲げた。
ホンダでF1のパワーユニット開発総責任者を務める本田技術研究所 HRD Sakuraセンター長兼F1プロジェクトLPLの浅木泰昭氏も「高効率モーターはEVやHVにとって必要なもの。F1と量産車は近いところにある」と指摘する。量産車技術はいつの時代も走る実験室で磨かれている。
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