パナソニックの携帯電話技術は息絶えず、sXGPとローカル5Gで生きる:組み込み開発 インタビュー(2/2 ページ)
パナソニックの携帯電話関連事業は既に“過去のもの”というイメージが強い。しかし、基地局関連技術については、2014年9月の事業売却以降も、テクノロジー本部で研究開発が続けられてきた。同本部の開発担当者に、カナダの通信機器向けICベンダーであるオクタジックとの共同開発を含めた、基地局関連技術の今後の展開について聞いた。
sXGP方式が新たな契機に
制度化の問題で自営無線のLTE化に関する研究開発を進められない中、2016年に新たな“転地”の可能性が出てきた。総務省が、1.9GHzの周波数帯を使用するデジタルコードレス電話のLTEによる高度化の検討作業班を立ち上げたのだ。ここで用いられる技術として検討されたのが、LTEをベースとするsXGP(shared eXtended Global Platform)方式である。
もともとsXGPは、自営無線でも利用されてきたPHSの停波を念頭に、パナソニック、日立製作所、NEC、富士通、OKIの5社が共同して開発の取り組みを進めてきた方式である。総務省は、プライベートネットワークで利用できるLTE(プライベートLTE)として、1.9GHz帯を用いたsXGP方式を展開していくことに積極的な姿勢であり、制度の整備も順調に進んでいった。
パナソニックの自営無線LTE化の開発も、総務省の推進を受けてsXGP方式を軸に進めていくこととなった。実際に、セルラーV2X(Vehicle to X)を用いたETCサービスや、2019年10月にトヨタ自動車が発表したコンセプトカー「LQ」に搭載された無人自動バレーパーキングシステムなど、実証実験ベースの取り組みも進んでいる。「パナソニックでは実際にsXGP方式を用いたシステムを社内運用している。絵に描いた餅ではない、既に利用できる技術に仕上がっている」(金澤氏)という。
無人自動バレーパーキングシステムのイメージ。パナソニックのsXGP方式の技術は、「インフラ監視・管制サーバ連携技術」の中で、適切な無線エリアの設計、優先トラフィック制御を用いた無線通信を介した管制サーバからの低遅延ブレーキ指示による車両の安全な停止、などに用いられている 出典:パナソニック
「自社開発と同等レベルの自由度を手に入れた」
このsXGP方式の開発を進める中で、パナソニックが関係を深めてきたのがオクタジックである。パナソニックでは、1.9GHz帯への対応や、eMTC(LTE Cat.M1)、多次元化、他帯域からの干渉を解決するダイナミックリソースマネジメント、遅延時間が数十ms以上にならないようにする低遅延保証など、sXGP方式で求められるミドルウェア層以上のさまざまなソフトウェアの開発を進めた。金澤氏は「これらの開発を進める中で、当初はICと関連ソフトウェアを購入するベンダーにすぎなかったオクタジックとの間で、今後の5Gも視野に入れた情報共有が進んでいった」と述べる。
今回の5G以降に向けた共同開発の合意により、パナソニックは基地局に必要なベースバンド処理ICの開発について「自社開発と同等レベルの自由度を手に入れた」(金澤氏)という。開発テーマとしては、産業向け5Gのドライバーとなる超信頼性低遅延通信(UR-LLC:Ultra-Reliable and Low Latency Communications)機能や、より広域に対応する大ゾーン化、航空機などに適用可能な非地上通信ネットワーク技術などが挙がっている。
オクタジックとしても、北米で展開している警察や防衛などの自営無線向けソリューションを高度化する際に、自社のICと物理層ソフトウェア、そしてパナソニックの上位層ソフトウェアを組み合わせた提案が可能になる。
現在日本国内では、5G市場のけん引役としてローカル5Gに注目が集まっているが、現状ではユーザー側に最適なシステムが提供されているとはいい難い状況にある。パナソニックとしては、オクタジックとの共同開発をてこに、ローカル5Gに最適な基地局を含めた提案活動を加速させたい考えだ。「UR-LLCを含めて、5Gならではの技術開発を進めていきたい」(金澤氏)としている。
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