“メタボ工場”からどう脱却するか、成功のカギは「両端」を狙うこと:PTC Virtual DX Forum Japan 2020(2/2 ページ)
PTCジャパンは2020年8月20日〜9月25日までの期間、オンラインイベント「PTC Virtual DX Forum Japan 2020」を開催。この中でキーノート講演の1つとして、PTCジャパン 製品技術事業部 執行役員 副社長の成田裕次氏が登壇し「なぜPTCがスマート工場に貢献できるのか」をテーマに、スマート工場化の概要とPTCの取り組みについて紹介した。
現場に武器を与えるスマート工場とは
それでは、日本で考えられている「現場に武器を与えるスマート工場」とはどういうものなのだろうか。
経営側は製造現場を支援する組織であり、現場に対して改善指示を出す。指示を受けた現場はQCサークルなどで改善の方向性や取り組みを決定する。その際、現場での改善施策が進みやすいように、改善の方向性に合わせたアンドンを作る。改善施策と新しいアンドンが朝会などを通じて従業員に紹介され、現場での調査と普遍的な改善がすぐに実行される。その結果を受けて方向性を調整したり、アンドンを作り直したりする。ここで重要となるのがアンドンを作成する形だ。「現場のスタッフがすぐに作り直せるようなプラットフォームが最も重要になる」と成田氏はポイントを強調する。
また、必要であればAIを使って現場にリアルタイムで故障や異常の予兆を伝えたり、データ分析の専門家が新しい観点を提供したりし、最終的には現場での効率や品質を上げるために改善を目指す。成田氏は、こうした一連の流れにより、最終的に現場に何らかの価値を生み出す取り組みこそが「現場に武器を与えるスマート工場構想だ」と説明している。
スマート工場の狙いどころとは
続いて、スマート工場の事例として、住友ゴム工業のタイヤ生産のスマート化について紹介した。同社は2025年までに国内外12拠点の生産拠点をスマート工場化するプロジェクトを進めている。ただ高品質で高効率のタイヤ生産を実現するためにはさまざまなデータ活用が必要となり、IoTプラットフォームの導入を決定。PTCが展開するThingWorxにより生産ラインごとに異なるFAシステムとの連携を可能とし生産現場に合ったアプリケーションの開発や一元的な可視化を行い、国内外工場での横展開を推進しているという。
また、飲料メーカーであるデンマークのCarlsberg(カールスバーグ)が、工場で総合設備効率(OEE)の向上を目指したプロジェクトなども紹介。クラウドベースのリアルタイムパフォーマンス追跡システムを実装し、飲料のパッケージングラインのパフォーマンスを高め、稼働状況のリアルタイムの可視化を実現している。このプロジェクトの特徴は、水平展開のスピードにあり、1カ月に1工場というペースで導入を広げているという。
これらの事例からみて、スマート工場が成功するための狙いどころは「費用対効果と取り組み範囲のバランスにある」と成田氏は述べる。「PTCのさまざまな取り組みの中での成功例を見ても、極端にスコープを狭めるか、もしくは積極的に広げたところが長続きし成功している」(成田氏)
つまり特定の設備やラインに特化し、ボトムアップ型で進める日本のスマート工場的な取り組みにおいては「足りないデータを追加で集め続け、品質の悪いデータはその改善から始めるなど、諦めずにコツコツと深堀りし続けることで、効果を得ることができる」と成田氏は考えを述べている。
一方で、全社規模で取り組みを進め、小さな改善を多くの拠点から集めることでトータルで大きな効果を獲得するという方法でも成功しているという。「海外のスマート工場の特徴的な取り組みである横展開が重要なカギだ。横展開時の投資を抑制し高い投資効果を実現するためにはIoTプラットフォームが重要な役割を担う。この取り組みは“メタボ体質”である海外の工場の方が、実績は上がりそうだが、日本の製造業でもやり方によっては成果は得られる」と成田氏は語っている。
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