自動運転はなぜ大変か、必要な技術の幅広さと実証実験の難しさ:自動運転技術(2/2 ページ)
マクニカとマクニカネットワークスは2020年7月2〜3日と9〜10日の4日間、シンポジウム「Macnica Networks DAY 2020+macnica.ai」をオンライン形式で開催した。本稿では、マクニカ SIGモビリティソリューション事業部 プロダクトマーケティング1部部長の大竹勉氏による「自動運転の仕組みと活用〜施設内や私有地のモビリティ支える自動運転車はこうして作られる〜」の内容を紹介する。
複雑なシステムを検証するために増える実証実験
現在、検証のため盛んに行われているのが実証実験だ。今回のシンポジウムでオンラインの利点を生かし、参加者に「実証実験に取り組んでいるかどうか」を聞いたところ、14%が「取り組んでいる」、9%が「これから取り組む予定」と回答した。参加者の中で23%が何らかの自動運転の実証実験に参加していることになる。
日本国内では現在自動運転に関する実証実験が、34カ所以上で実施されており、その数は増えている。それぞれが自動運転技術をはじめ、道路環境(車と車、車と歩行者の混在環境)、サービス(ビジネスモデルの構築、運営主体・運用スキーム、運用費用や設備費用)、社会の受容性などをテーマとして検証を行い、実サービスまでの課題の抽出と対策に取り組んでいる。マクニカでも「2019年からいくつかの実証実験に参加している。社会での実用に向けてはさまざまな課題があり、今後もさまざまな方向性での検証作業が必要である」と大竹氏は語る。
ただ、実証実験のプロセスは計画立案から調整・調査、現地での準備など煩雑であり、多岐にわたるタスクが発生する。実証実験のそのものが大きな負担となるために、実証実験を支える仕組みの整備も進みつつある。2020年4月には公道実証に関する緩和の提案(道路使用許可の延長、車両基準の緩和、道路交通法の柔軟な運用など)が行われ、同年5月に自動運転実証実験を迅速かつ円滑に実現できるスーパーシティー法案が可決されるなど、国としての方向性が示された。
自動運転実証実験に関するマクニカの取り組み
マクニカでは2018年に実証車両のインテグレーションサービスを開始。2019年にはタイで自動走行のデモンストレーションや奈良県で自動運転車社会実証実験を実施した。2020年は公道でのサービス提供支援を行う。具体的には9月から羽田HI-Cityでの運用を開始し、10月には公道シャトルサービスを始める計画だ。大竹氏は「こうした車両の提供やコミッショニングを含めて、エコパートナーと連携を取りながら、実証実験構築支援に取り組んでいる」と実証実験を積極的に拡大する姿勢を示した。
取り組みの一部を紹介すると、例えば、物体認識に欠かせないAIを構築するにはさまざまな対象物や道路の状況、各環境の条件など膨大なデータが必要となる。これに対して、同社は顧客の目的に応じて、コンサルティングを行い適切なデータ収集、前処理、そしてAI構築まで一貫したサービスを提供している。データ収集車両(マクニカー)を数台用意し、搭載したセンサーを用いて必要なデータを時刻同期させて取得し、自動運転の学習ニーズに応える。さらに、特化した対象物(駐車場など)、時間帯、気象条件、大規模なエリアなど道路以外のさまざまなデータニーズにも対応する。
大竹氏は「LiDAR、カメラ、GNSS(Global Navigation Satellite System)、IMU(Inertial Measurement Unit)などから取得したデータをタイトカップリングし、高精度な点群作成も可能だ。このように、先進のハードウェアによるデータ取得とSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)アルゴリズムを組み合わせることで、通常高価なMMS(Mobile Mapping System)を低価格で提供することができる」と述べた。
この他、高品質アノテーション作業も可能で、バウンディングボックスでの表示およびセマンティックセグメンテーションなどのサービスも行う。特に、学習用データセット作成に必要なカスタムの要求にも柔軟に対応し、クラウド上でのオートアノテーションの開発も進めている。
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