進まぬ製造現場のAI活用、AIベンダー側とユーザー側のそれぞれの事情:製造現場向けAI技術(1/2 ページ)
マクニカとマクニカネットワークスは2020年7月2〜3日と9〜10日の4日間、シンポジウム「Macnica Networks DAY 2020+macnica.ai」をオンライン形式で開催した。本稿では、マクニカイノベーション戦略事業本部カスタマーサクセス部課長の本村健登氏による「製造業はAIごときで立ち止まるな〜Industrial DXを実現した企業の5つの秘密〜」の内容を紹介する。
マクニカとマクニカネットワークスは2020年7月2〜3日と9〜10日の4日間、シンポジウム「Macnica Networks DAY 2020+macnica.ai」をオンライン形式で開催した。同イベントそのものは今回で15回目を迎えるが、サイバーセキュリティ、DX(デジタルトランスフォーメーション)、AI、IoT、スマート工場、清掃ロボット、自動運転車などをテーマにセッションを実施。本稿では、マクニカイノベーション戦略事業本部カスタマーサクセス部課長の本村健登氏による「製造業はAIごときで立ち止まるな〜Industrial DXを実現した企業の5つの秘密〜」の内容を紹介する。
AIは導入までの期間が長過ぎ、費用も高過ぎる
AI(人工知能)技術への注目度はここ数年で急速に広がっており、約8割が何らかの形でAI活用を進めているといわれている。しかし、PoC(概念実証)から実運用へステップを進めきれないプロジェクトも多数存在しているという。本村氏は、工場でAI導入が止まってしまう根本的な要因をベンダー側とユーザー(工場)側の課題としてまとめた。その上で、1年間AIを実運用し、経営革新を実現した企業の5つのポイントを示した。
本村氏は、AIベンダー側の課題として「AIプロジェクトのフローと価格相場のバランスがある」と指摘する。AI導入までのスケジュールの期間と費用を見ると、ユーザーからデータ提供を受けるまでに大体1カ月かかる。さらに、このデータ3〜4カ月かけて分析(費用2000万円前後)し、さらに3〜6カ月かけてAIモデルの開発やシステム実装(3000万円前後)、運用時のデータ連携システムの開発(1000万円前後)などを行う。ここまでで費用では約6000万円、期間では約1年間かかる。
加えて、運用後もAIモデルの再学習やアップデート、管理、システム保守に年間500万円前後の費用がかかる。こうした基本となる費用が「高い」というのが本村氏が指摘する課題である。本村氏は「ユーザーが実際に活用するまでの期間が長過ぎ、費用もが高過ぎる。AIベンダーの中での活動が長過ぎるためだ」と訴える。
AIベンダーはユーザーの要件に従って分析・開発に費やした工数を対価とする。ベンダー活動が長期化すれば、その分価格は高くなる。さらに、ユーザーは約6000万円支払ってAIを導入しても、導入後3カ月くらいは運用しないと効果の検証ができない構図がある。その結果「現状は効果検証までのトータルコストが高く、しかも期間が長い」ということになる。
日本の工場では、改善活動の繰り返しにより品質と稼働率を高度にバランスを維持しながら実現している。そのため「効果の分からないものに手を出さない」「成功する保証のある(成功事例のある)ものを信用する」という文化がある。本村氏はAIベンダー側の課題として、こういう工場が重視するものを理解していないケースがあると指摘する。
「ユーザーにはAIを実際に導入して効果が出るまでにいくら費やすか分からないという不安がある。投資金額が不透明だから手を出せずに立ち止まるということが、AI導入がストップする大きな要因となっている。多くのAIベンダーが『AIだからやってみないと分からない。でもやることは多いので5000万円ください』という営業をしていることになる。これが工場側には受け入れられないもので、その認識のギャップが大きな問題になっている」と本村氏は述べている。
そして、その対策については「ユーザーにAI体験までをいかに短期間で安く提供できるかが、日本の工場にAIを浸透させるカギとなる」と述べた。ユーザーが少ない投資金額で、自分で体験し、効果が出るかどうかをいち早く検証し、その効果を拡大や横展開できるように中長期で経営効果検証を伴走するというアプローチである。「効果が不透明な段階で、数千万円から1億円の金額を支払わせるのは不合理で、これが当たり前になったことが原因でAIに手を出すのが怖くなったという工場などもある。できる限り早く低価格で現場でAIが活用できる環境を提供し、その後の改善や拡大などに合わせてパートナーとして伴走しながら、価値に合わせて費用を回収するモデルにAIベンダー側も切り替えていくべきだ」と本村氏は主張している。
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