“不確実”な世の中で、企業変革力強化とDX推進こそが製造業の生きる道:ものづくり白書2020を読み解く(2)(4/4 ページ)
日本のモノづくりの現状を示す「2020年版ものづくり白書」が2020年5月に公開された。本連載では3回にわたって「2020年版ものづくり白書」の内容を掘り下げる。第2回では、“不確実性”の高まる世界で日本の製造業が取るべき方策について紹介する。
製造業に迫る「2025年の崖」
製造業のデジタルトランスフォーメーションを阻害し、ダイナミック・ケイパビリティを低下させるリスクとして見落としてはならないものの1つに、基幹系システムの問題がある。経済産業省「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」の報告書「DXレポート〜ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開〜」(平成30年9月7日)(図11、12)は、日本企業の約8割が、複雑化・老朽化・ブラックボックス化した基幹系システムである「レガシーシステム」を抱えていると警鐘を鳴らしている。
世界規模でデジタルトランスフォーメーションが進む中、「レガシーシステム」が残存している企業では、爆発的に増加するデータを活用しきれず、デジタル競争の敗者となる恐れがある。また、ITシステムの運用・保守の担い手が不在になり、多くの「技術的負債」を抱えるとともに、業務基盤そのものの維持・継承が困難になる。加えて、サイバーセキュリティや事故・災害によるシステムトラブルやデータ滅失・流出などのリスクが高まることも予想される。
すでに、日本企業のIT関連予算の80%は現行ビジネスの維持・運営(ラン・ザ・ビジネス)に割り当てられており、さらにラン・ザ・ビジネス予算が90%以上を占める企業も40%を超えている。これは裏を返せば、バリューアップのためのIT投資がIT予算の2割以下にすぎないということを意味する。DXレポートは、「レガシーシステム」が残存した場合、2025年までに予想されるIT人材の引退やサポート終了などによるリスクの高まりなどに伴う経済損失は、2025年以降、最大で1年間に12兆円(現在の約3倍)に上る可能性があると指摘し、これを「2025年の崖」と呼んでいる。
この「2025年の崖」の問題は、約9割が「レガシーシステム」を抱えていると回答している日本の製造業においても存在しており(図11)、その解決は喫緊の課題である。レガシーシステムは、大量のデータの利活用を困難にする、あるいはシステムの維持・運営費が技術的負債として重くのしかかるといった理由により、ダイナミック・ケイパビリティを制約することになる。
デジタル技術が企業変革力を高める武器となることを認識せよ
これまで見てきたように、デジタル技術を企業変革力の強化に結び付けられる企業が、この不確実性の時代における競争で優位なポジションを得られることに疑いの余地はない。2020年版ものづくり白書でも、デジタル技術が企業変革力を高める上での強力な武器であるという点を最大限に強調している。しかしそれとは裏腹に、日本の製造業はIT投資目的の消極性、データの収集・活用の停滞、老朽化した基幹系システムの存在といった課題を抱えており、ダイナミック・ケイパビリティの強化のためにデジタル技術を十分に活用しているとは言い難い状況であることが分かった。
デジタル技術が製造業にもたらす恩恵は、業務効率化やコスト削減などオーディナリー・ケイパビリティの強化にとどまるものではない。そのことを認識し、デジタル技術を徹底的に利活用してダイナミック・ケイパビリティを強化することこそ、不確実性の高い世界における日本の製造業に求められる姿勢の1つといえよう。
第2回では、“不確実性”の高まる世界で日本の製造業が取るべき4つの方策のうち、「企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)」強化の必要」「企業変革力を強化するデジタルトランスフォーメーション推進の必要」について掘り下げた。第3回では、「設計力強化の必要」と「人材強化の必要」について見ていきたい。
筆者紹介
長島清香(ながしま さやか)
編集者として地域情報誌やIT系Webメディアを手掛けたのち、シンガポールにてビジネス系情報誌の編集者として経験を重ねる。現在はフリーライターとして、モノづくり系情報サイトをはじめ、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
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