帝人は日立との「情報武装化」でマテリアルズインフォマティクスを加速する:製造マネジメント インタビュー(2/2 ページ)
帝人が、新素材の研究開発におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進に向けて、日立製作所との協創を始める。帝人と日立は今回の協創をどのように進めていこうとしているのか。両社の担当者に聞いた。
6つの施策で研究開発のDXを推進
今回の帝人と日立と協創は、研究手法やノウハウを利活用するためのCPS(サイバーフィジカルシステム)の構築という方向性でまとめられている。帝人が持つ素材開発ドメインにおける豊富なナレッジや知見と、日立が得意とするLumadaなどの先進デジタル技術や、20社以上のユーザーに採用されているMIの実績を組み合わせて、フィジカル空間における研究開発のさらなる高度化と効率化、サイバー空間における分析と知識化を実現していく。
日立は、2020年度に入ってから数カ月をかけて帝人側へのヒアリングや調査を行った。今回の協創の実現に向けた具体的施策としては、「R&D部門の統合DB(データベース)」「MIを用いた材料開発」「実験データ管理」「関係性可視化」「暗黙知の知識化」「R&Dポータル」の6つを定めており、既に幾つかの取り組みが進行している。
今回の協創の中核的な取り組みとなるのが「R&D部門の統合DB」だ。日立の森田氏は「設定や管理、加工などの使い勝手と安全性、拡張性を備えた、さまざまなデータの収集と蓄積を可能にする統合DBの実現を目指して、両社共同のワークショップでディスカッションを重ねた」と説明する。特にこのディスカッションでは、業務面の要件を整理してデータの利活用シーンを設計するUXデザイナーと、システム面の要件を整理して課題解決に必要なデータがどこにあって、どのような加工処理をする必要があるかを検討するITコンサルタントが入って、フィードバックと要件調整を繰り返しながら、最適なデータベースの検討を進めたという。
「MIを用いた材料開発」は、順次構築を進めていくことになる統合DBに収集、蓄積したデータを活用していくことになる。「材料特性予測支援」では、ベテラン研究者の知見と経験をモデル化してノウハウを共有し、データ分析の経験が浅い研究者も効率良く実験が行えるようにする。「材料実験計画策定支援」は、目標とする性能や機能を持つ材料を開発するための実験条件を効率良く発見するもので、統合DBに加えてデータマイニングやシミュレーション、AIを連携させて実現する。「いわゆる“逆問題MI”につながるものだ」(森田氏)。
また、MIを支援する取り組みとしては、SEMやTEMといった電子顕微鏡の撮影画像からさまざま特徴量を抽出・識別して、データの意味付けや解釈の定量性をより高める「材料画像情報抽出」や、大量の特許文献に対して単語抽出AIを適用して特許要約データを作成する「材料文献情報抽出」なども行う。
「実験データ管理」と「関係性可視化」は統合DBと深く関わる取り組みだ。「実験データ管理」では、実験室や分析室など複数箇所で生成される実験データや実験条件などのメタデータの関係をひも付け、データを構造化し、MIを行うためのデータ生成や統合的な実験データの解析を支援する。上野山氏は「実験データは、実験のための機器や設備から得られる1次データの他に、各部署や研究者個人が帳票データにまとめている2次データ、論文化された3次データなど多岐にわたる。これら全てを取りあえずデータレイクに集めて、目的に合わせて検索、統合できるようにする」と述べる。
一方の「関係性可視化」は、人と技術の関連性を可視化し、情報の共有と活用を促進するためのものだ。個々の研究者は自身の業務に専念することも多く、同じ社内であっても研究者間で緊密に連携できているとは限らない。このため、現在の研究を進めるのに必要な知識やノウハウを持つ研究者と連携したいときに、その研究者にたどり着くのに時間がかかってしまう。「関係性可視化」によって、社内技術情報や月報、週報、特許などから「人」と「技術」に関するテキストマイニングを行って分析・可視化し、キーワード検索などで簡単に研究者を見つけられるようになる。
「暗黙知の知識化」は、AIの活用によって研究者の知見の文書化を支援する。このAIは、クローズドクエスチョンで研究者が何を書きたいかを特定してから、オープンクエスチョンを通じて文案を作成する。この間、研究者は「はい」か「いいえ」で回答するだけでよい。研究者は、この自動で作成された文案に対して、実験結果の数値などの穴埋めだけを行うだけで文書を作成できる。
最後の「R&Dポータル」は、統合DBに蓄積された情報にアクセスするための社内ポータルサイトだ。チャット機能によって研究者間のコミュニケーション活性化も期待できる他、社内外の会議の音声データを自動的にテキスト化する機能を取り込み、議事録など書き起こしにかかる時間の削減にも貢献するとしている。
「日本のMIは海外と比べて後れていない。むしろ先に進んでいる」
MIについては、海外と比べて国内の取り組みが後れていると指摘されることも多い。今回の帝人と日立の協創も、“後れを取り戻すため”と見る向きも多い。
しかし、森田氏によれば「MIのソリューションを提供する立場から見ての意見になるが、日本は欧米などに対して後れてはいない。むしろ、学会発表レベルではより先に進んでいるようにも感じられる。この調子でいけば、日本が主導権を握っていくことも可能ではないか」という。
帝人の上野山氏も「日本が後れているとは思えない。最低でも海外勢と同じ程度にはMIを進めているだろう。今回の日立との協創は、機械やソフトウェアに代替させられるところは代替させて、研究者に新しい発想や創造性を発揮するのに専念してもらうためのDXになる。MIについてもさらに加速できるのではないか」と述べている。
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