新型コロナ禍からのV字回復をどう描くか、製造業復活のステップ:モノづくり最前線レポート
セールスフォース・ドットコムは2020年7月に業界別のバーチャルイベント「Salesforce Live」シリーズを展開中で、2020年7月14〜17日には製造業向けに特化した「Salesforce Live: Manufacturing」を開催している。本稿では、オープニングキーノート講演の中の「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対して、製造業はどのような取り組みを進めるべきか」についての内容を紹介する。
セールスフォース・ドットコムは2020年7月に業界別のバーチャルイベント「Salesforce Live」シリーズを展開中で、2020年7月14〜17日には製造業向けに特化した「Salesforce Live: Manufacturing」を開催している。
本稿では、オープニングキーノート講演の中で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対して「製造業はどのような取り組みを進めるべきか」を紹介したセールスフォース・ドットコム 執行役員 エンタープライズセールスエンジニアリング本部 製造ソリューション 兼 韓国リージョン 担当の高野忍氏の話と、米国Salesforce.comで製造業・自動車業界担当バイスプレジデント兼 Chief Solutions Officerを担うアチュート・ジャジュー(Achyut Jajoo)氏とKawasaki Motors U.S.A. エンジン事業部 バイスプレジデントのネルソン・ウィルナー(Nelson Wilner)氏の対談の様子を紹介する。
COVID-19の影響を強く受ける製造業
セールスフォース・ドットコムの高野氏は、COVID-19について「製造業には特に大きく影響が出ている」と述べる。グローバルの調査でも「財務的に影響がある」とした企業が78.3%に及んだ他、「サプライチェーンが混乱している」とした企業は35.5%だったという。「この調査は2月末から3月にかけての調査だが、それでもこれだけ大きな影響が出ている。実際にはこれ以上の影響があり、厳しい状況が生まれていることが分かる」と高野氏は述べる。
日本国内の様子を見ても「サプライチェーンに支障がある」とした企業が39.1%となっている。「特に日本の製造業はサプライチェーンとして中国への依存度が高く、中国に関係する数値で大きなマイナスが生まれている。これらに伴い、生産拠点の見直しや国内回帰を検討する動きも出てきている」(高野氏)とする。
緊急事態宣言の解除などもあり、第2波の懸念があるものの経済再開の動きも活発化しているが「その中でも業界ごと、企業ごとに回復への道のりは異なっている。回復期間は18カ月〜3年間ともいわれているが、その中で4つの回復パターンがある」と高野氏は述べる。
パンデミックへの積極的な対応で短期間に回復を実現する「V字型」、一定レベルの対応で緩やかな回復となる「U字型」、対応失敗によりパンデミックによる変化で衰退が続く「L字型」、そしてV字型とU字型が組み合わさった「Y字型」である。高野氏は「これらの4つのパターンがあらゆる企業に起こり得る。感染拡大で活動が制限される期間にどういう変革に取り組んだのかが大きな違いになる」と語っている。
さらに回復のためのロードマップとして3つのフェーズがあると高野氏は指摘する。1つ目が「安定化(Stabilize)」だ。混乱の中にある中でまずは企業として問題なく活動を続けられるように体制を整える必要がある。次に「Reopen(再始動)」のフェーズがある。経済再開に向けて、ビジネスを再び立ち上げていくという段階だ。そして「Grow(将来の成長)」がある。ニューノーマル(新常態)に合わせた形で新たな成長を作り出していく段階である。これらのフェーズと「リーダーの透明性」「従業員の支援」「顧客とのつながり」などの要素や「効率性」「俊敏性」「安定性」などの要素を組み合わせて、最適な行動に落とし込んでいく必要がある。
これらの複雑な情報を集約し、最適な判断を下すためには、デジタル基盤の活用は必須となる。高野氏は「デジタル技術でこうした動きを支えていく必要がある」と強調した。
サイロ化された情報をまとめるデジタル基盤
これらの事例として、Salesforce.comのジャジュー氏が対談の形で紹介したのが、Kawasaki Motors U.S.A.の取り組みだ。Kawasaki Motors U.S.A.のウィルナー氏は現在の状況について「幸いなことに当社の製品は生活必需品と認められたのでビジネスを続けることができた。出勤の必要がない社員については在宅勤務が基本となったが、デジタル基盤によりオフィスでの業務と変わらない仕事を続けることができた。経済再始動の動きに合わせ、これからはオフィスに戻す業務はオフィスに戻し、健康や安全を確保した働き方を進めていく」と語っている。
Kawasaki Motors U.S.A.では以前からSalesforce.comのソリューションを使用し、コロナ禍の中でもこれらを駆使することで業務を継続できたとする。もともとこれらのデジタル基盤を採用したきっかけとしては、社内の各部門のサイロ化があったという。
「製造部門や物流部門、カスタマーサービス部門、経理部門、営業部門など、誰もが熱心に働いていたが、必要なコミュニケーションが取れていないために価値が最大化できていない面があった。お互いにファイルでデータをやりとりしていたが、情報のセンターポイントやハブとなるところがなく、無駄が生じていた」とウィルナー氏は語る。そこで、デジタル基盤を整理し、デジタル上で必要な情報のやりとりを実現できるようにした。「数年前と比べれば、ロケット燃料で高速道路を走るようなスピード感でさまざまなことが進められるようになった」とウィルナー氏は成果について述べる。さらに現在はこれらの取り組みを広げ、製造現場での情報も全て一元的にデータ化し、データ分析によりあらゆるビジネスをデータドリブンで進められるようになったという。
ジャジュー氏は「安全で速やかにビジネスを再始動するために検討すべき課題は山積みである。従業員の健康確保をどう担うのかや工場のオペレーションをどう変えるのか、経営幹部の情報把握をどうするのかなど、新しい健康ポリシーの作成など、やらなければならないことは多い。そうする中ではデジタル技術の活用は必須だ」とし、同社のソリューションを紹介した。
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