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線形静解析の流れを“ステップ・バイ・ステップ”で理解する構造解析、はじめの一歩(5)(5/5 ページ)

「構造解析」を“設計をより良いものとするための道具”として捉え、実践活用に向けた第一歩を踏み出そう。第5回は「誰もが必ずできる線形静解析」をテーマに、無償ツールを活用しながら“ステップ・バイ・ステップ”で大まかな線形静解析の流れを解説していく。

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解析する

 これで線形静解析に必要な条件は全てそろいました。解析を実行しましょう。

結果を見る

 まず、確認するのは変形図です(図5)。設定した荷重の方向に変形しているかどうかを確認します。Fusion 360などCADに実装されているCAEモジュールでは、まず応力図を表示します。応力をすぐに見たいのは分かりますが、応力は変形から計算されているので、まずは変形が正しいかどうかを確認することが重要です。

図5 LISAによる解析結果
図5 LISAによる解析結果 [クリックで拡大]

 一般的には変形はある倍率でデフォルメして描かれます。実際の変形量とは違うので注意が必要です。

 次にミーゼス応力を見ます。ミーゼス応力の最大値が材料の降伏応力を超えていなければひとまず安心です。ただし、この例題では安全率を考慮していません。

 この例題のミーゼス応力ですが、最大値が固定した穴の縁で62MPa出ています。ここは拘束した部分とピン角なので応力特異点の可能性が高いため、応力値そのものは無視します。大きめのミーゼス応力は、フィレットエンドで35〜40MPaといったところでしょうか。SS400の降伏応力は245MPaなので、強度的に十分余裕があることが分かります。安全率でいえば6〜7倍ということになります。

 ちなみに、同じモデルをFusion 360で解析してみました(図6)。ほぼ同じ結果が得られています。

図6 Fusion 360による解析結果
図6 Fusion 360による解析結果 [クリックで拡大]

 ミーゼス応力の最大値が材料の降伏応力を超えていたら、その解析結果は使えないのでしょうか? そんなことはありません。次のように解析結果の利用価値は十分あります。

 まず1つ目は、材料の見直しの指標になります。材料を変えても発生する応力は変わりません。解析結果のミーゼス応力の最大値と比較する材料の降伏応力の値が変わります。よって、ミーゼス応力の最大値が材料の降伏応力に収まるような材料を選べばいいのです。

 2つ目は「臨界荷重」を逆算できるということです。臨界荷重とはその部品や構造物が耐えられる限界の荷重のことです。

 この例題で使った一般構造用圧延鋼材であるSS400を例に説明します。特異点の応力を除くこととして考えてください。1000Nの荷重をかけた解析で算出されたミーゼス応力の最大値が750MPaだったとしましょう。これはSS400の降伏応力である245MPaを大きく超えています。750MPaは245MPaの何倍でしょうか。

750MPa ÷ 245MPa = 3.06倍

 この倍率で荷重を割れば、降伏応力に等しくなるような荷重値を算出できます。

1000N ÷ 3.06 = 326.8N

 安全サイドをとって、300Nくらいの荷重であれば、耐えられることになります。これは荷重と変形の関係が「線形である」という線形静解析だからこそ成り立つ逆算です。

 以上が、大まかな線形静解析の流れになります。今回は、LISAというフリーソフトを使って解析をしてみましたが、Fusion 360などでは操作はさらに簡単になっています。3Dモデルと有限要素の関係、解析と直接関係のない材料定数や結果の見方は、線形静解析の勘所として押さえておいてください。 (次回に続く

コラム

「インターネットは21世紀には経済の道路になる」と言った人がいます。本当にその通りになりましたね。インターネットの通販も広告も実際のそれを上回りつつあるそうです。そして、インターネットは技術の道路にもなりつつあります。本格的な3D CADもCAEもクラウド上で提供されています。ソフトウェアをインストールする必要すらありません。ある程度の帯域を持つ回線とミドルレンジのPCがあれば、本格的な3次元設計と解析ができるのです。クラウドと技術系のインターネットサービスには注目しておきましょう。


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Profile

栗崎 彰(くりさき あきら)

1958年生まれ。サイバネットシステム株式会社 シニア・スペシャリスト。1983年より37年間、構造解析に従事。I-DEASの開発元である旧 SDRC 日本支社、CATIAの開発元であるダッソー・システムズを経て現在に至る。多くの企業で3次元CADによる設計プロセス改革コンサルティングや、設計者解析の導入支援を行う。特に設計者のための講座「解析工房」が人気。解析における最適なメッシュ・サイズを決定するための「OK法」を共同研究で模索中。


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