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データを世界の共通言語に、リアルタイムで製品収益を見える化する安川電機のDX製造業×IoT キーマンインタビュー(2/2 ページ)

「データを世界の共通言語に」をスローガンとし「YDX(YASKAWA digital transformation)」として独自のデジタル変革(DX)を進めているのが、産業用ロボットやモーターなどメカトロニクスの大手企業である安川電機である。安川電機 代表取締役社長の小笠原浩氏に「YDX」の狙いについて話を聞いた。

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データを世界の共通言語に

MONOist 具体的にはどういう取り組みを進めているのでしょうか。

小笠原氏 まず訴えたのが「データを世界の共通言語に」ということだ。そのベースとしてデータはユニークであるべきだという考えがある。「YDX」以前はそれぞれの拠点や部門、子会社が、それぞれの業務に合う形でデータ項目を設定しており、指し示すものが同じでもデータ上は異なる項目となっている場合があった。そのため、収集してもデータ分析や一元的な管理が行いにくい環境だった。これを1つのデータ項目で共通に扱える仕組みを作ることを目指した。

 実現したいことの1つとして経営のコックピット化がある。これはリアルタイムで経営状況やあらゆる企業としての活動が見られるようにすることだ。売上高や利益、経費、工場の稼働や品質など、これらの情報を一元的にリアルタイムで見られる姿を目指している。

 しかし、そこまでいくには、多くの苦労がある。例えば、経営のコックピット化に向けて、言葉や項目、指標を統一するために、経営企画と経理の部門を統合した。経営計画に合わせた経理情報を扱いやすくする狙いがあったが「前代未聞だ」と社内外から反発があった。

 また、従来は部門ごとに対応が異なっていた「日報」も社員の行動を一元的に見えるようにするためにルール化した。フォームを決め部門ごとに行動の定義を決めて一元的に見えるようにすることでジョブディスクリプション(職務記述書)を明確にし、デジタル評価を行えるようにする狙いがあった。

 業務が明確化できれば社内のリソースがどこに使われていて、どれだけ消費されているのかが明確にできるようになる。将来的には、受注状況などと照らし合わせて、リソースの最適配置や売価へのフィードバックも行えるようになる。これも社内からは相当反発があったが、社長就任以降にルール化して徹底させた。

 これらに2017年頃から取り組み、既に定着してきたところだ。デジタル変革といえば、ITシステムの話が中心に扱われるが、実際にはこうした組織や人の問題の方が重要で、大変なことだと感じている。

ITシステムの整備とコードの整理

MONOist これらの組織的な整備の裏側を支えるITシステムの整備も進めているのでしょうか。

小笠原氏 同時に進めている。2018年にCIO(最高情報責任者)も兼務し加速させた。以前から基幹システムにはSAPを入れていたが、周辺の業務システムはバラバラの状況で、さらにデータ項目も部門や子会社ごとに異なり、システムもデータもつぎはぎの状態だった。データ1つ1つに「1つの意味」を与え、合わせてシステムもグローバルで統一しシンプルな形に変革を進めているところだ。勘定項目も連結子会社70社でバラバラだったのを統一した。現在はシステム面でも30数社は統一できた。残りはツールの問題などで待っている状況だ。

 顧客や調達先コードもグローバルで一元化を進めている。難しいのが、調達先や顧客というだけでなく地域によっても取引きの量や歴史が異なるため、価格や条件が同一製品、同一顧客でも異なる場合がある。こうした条件も反映できる形で、コードを設定していく難しさがある。

 製品コードについては、カスタム品も含めた多岐にわたる製品を統合していく難しさがある。さらに、生産過程の中間品の管理も含めると、現在の運営とかみ合わない部分も出てくる。最終製品のコードについては既に一元化が完了したが、中間品については、変換表を用意し変換して収集するようなやり方を今はとっている。

 これらの一元化については2020年初にようやくめどがたったところだが、2021年にかけてはその他の取り組みもさらに加速する。効果はこれから出てくるところだと考えている。

「YDX」で目指す世界

MONOist 「YDX」で具体的に目指したい姿はどういうものでしょうか。

小笠原氏 さまざまな変革を推進しているが、最も実現したいのは「モノを1つ売った時にどれくらいの付加価値があるのか」をリアルタイムで見えるようにしたいということだ。

 例えば、同じ価格で売れていても、その時に開発に技術者が多くかかわったり、営業が数多く訪問していたりすると、企業としてもたらされる価値は手がかからない方が大きい。製品1つ1つがどれだけ利益を出しているのか、その製品を売るためにどれだけ人手がかかっているのかが見えるようになれば、さまざまな経営判断ができるようになる。逆にいうと、製造業として製品や顧客に対する価値が見えない限りは本質的な勝負ができない。これを実現するには全世界のデータを一元的に管理できないと難しい。こうした企業活動による価値を明確に示せるようになるのが、目指す姿だ。

 これらが進んでいくと、人の働き方も変化する。職務や成果が明確になれば「ジョブ型」へとシフトしていくだろう。こうした業務改革を通じて意識改革を進めていくというのも目的の1つだ。

 こうしたデジタル変革のような取り組みは、一から新しく全て作り替える場合には簡単に実現できるが、既存の企業文化やビジネスがある中で、新しい形に作り直すことが最も難しい。ITベンダーや外部のコンサルティング企業に任せると、こうした背景を理解せずにツールや手法の話ばかりになることがあるが、任せっきりにせずに、あくまでも主導権を持って進めていくことが重要だと考えている。

MONOist 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、デジタルシフトはさらに加速しているように感じますが、その点についてはどう考えていますか。

小笠原氏 COVID-19の影響で、海外で進めていたプロジェクトが一部遅れたような面はあるが、国内に関してはデジタル化が加速したといえる。緊急事態宣言後のテレワークの中で実際に業務を進めてみて、実際にできること、できないことというのが明確に見えてきた。「日報」などの制度もテレワークであらためて真価を発揮した。工場は出社を余儀なくされたが、それ以外の面で多くの社員がデジタル化の価値を体感し意識が変わってきたのは大きいと考えている。



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