ヒト脳の老化進行を評価する新しい加齢バイオマーカーを発見:医療技術ニュース
理化学研究所は、磁気共鳴画像法の新しい手法を用いて、ヒトの脳の静脈排出パターンが加齢とともに変化することを発見し、加齢や脳損傷に伴う静脈排出不全が脳室の拡大を引き起こすメカニズムを示した。
理化学研究所は2020年5月15日、磁気共鳴画像法(MRI法)の新しい手法を用いて、ヒトの脳の静脈排出パターンが加齢とともに変化することを発見したと発表した。また、加齢や脳損傷に伴う静脈排出不全が、脳室の拡大を引き起こすメカニズムを示した。同研究所と京都大学、東京医科歯科大学の共同研究グループによる成果だ。
認知症の画像診断では、脳室の拡大が指標の1つとなる。脳室が異常に拡大する水頭症のうち、特発性正常圧水頭症は治せる認知症として知られている。同研究所生命機能科学研究センター脳コネクトミクスイメージング研究チーム 副チームリーダーの麻生俊彦氏らは、特発性正常圧水頭症では、静脈排出の異常が脳で起こっていることを先行研究で明らかにしている。
今回の研究では、静脈と脳室の大きさの因果関係を調べるため、さまざまな年齢の健常者と脳損傷患者の脳で、静脈排出パターンの大規模解析を実施した。MRIを用いて脳の血流を調べるラグマッピング法により、脳の表面や深部における静脈の血液の流れを検出した。
まず、加齢による静脈排出パターンの変化と脳室拡大、脳萎縮の関係を明らかにするために健常者の脳を計測。その結果、脳の萎縮は20代から進行が開始していた。一方、静脈排出パターンの変化と脳室拡大は中年期以降に進行し、どちらもよく似たパターンで50代に加速した。
次に、外傷性脳損傷患者の脳血流を調べたところ、静脈排出パターンは健常者に比べて加齢の方向に進んでいた。脳損傷を受けた年齢が若いほど損傷の影響が大きく、中年期以降ではほとんど影響を受けないことが分かった。このことから、脳損傷による静脈の変化が、加齢によるものと共通のメカニズムを持つ可能性が示された。
この静脈排出の加齢変化は、深部静脈系と表在静脈系という2つの静脈系統の間で血流のタイミングが年々ずれていくことで発生する。この変化は、脳室拡大に先行して現れたことから、静脈排出異常が脳室拡大の原因になっていることが示唆された。
こうした静脈排出パターンの変化は、脳の老化の進行を客観的に評価する新しい加齢バイオマーカーとなる。これにより、脳萎縮の指標となる脳室拡大の原因究明や老化予防、特発性正常圧水頭症の解明への手掛かりとなることが期待される。
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