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年間30台から200万台まで、多様さに悩むニコンが進めたデジタルモノづくり革新スマートファクトリー(2/2 ページ)

モノづくり関連の総合展示会「日本ものづくりワールド2020(2020年2月26〜28日、幕張メッセ)」の特別講演にニコン代表取締役兼社長執行役員兼CEOの馬立稔和氏が登壇。「ニコンのモノづくりへの取り組みと未来への挑戦」をテーマに、同社のモノづくりの考え方および新たな価値を提供する取り組みについて紹介した。

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カギを握るマスカスタマイゼーション化とデジタルモノづくり

 社内のモノづくり体制の革新については「コングロマリットディスカウントをコングロマリットプレミアム(複合化することで価値が高まっている状態)へと転換することを目指す。さらに、マスカスタマイゼーションの構築を目指し、光学分野の集約とデジタルマニュファクチャリングの活用拡大を図っている」と馬立氏は語る。

 光学分野の集約については光学本部を設立するなど、全事業の光学設計機能とオプトメカ設計機能を集約した横ぐし組織とした。これにより、事業間で最新の技術を共有し、半導体やフラットパネルディスプレイ装置関連の先端技術を他の製品に移転すること容易に行えるようになった。また、光学部品とそれに関係するメカ部品の生産拠点の統合(光学部品、光学ユニットの生産を栃木ニコンに集約)などモノづくり技術の横ぐし化も行った。

 これらにより技術面や技能面のシナジーを事業横断で生み出せるようにし、生産向上と高品質化を実現した。光学系のデジタルマニュファクチャリング活用において成果を生み出している事例としては、投影レンズの設計、生産がある。設計情報、3D図面、波面計測、製造などのデータベースを細かく管理、蓄積し、高精度の組み立てや生産安定化に活用している。

 これらは1990年代後半からスタートした取り組みだが、特に波動光学収差測定技術を用いるようになったことで高精度なレンズの組み立て調整が可能となったという。波動光学収差測定技術は短時間で高精度な調整が可能であることから、カメラレンズ、顕微鏡対物レンズなどの製造にもレベルを合わせながら転用可能で「それぞれの品質向上をはじめレンズ開発のリードタイム短縮にも貢献している」(馬立氏)。

デジタルモノづくりを事業の3つ目の柱に

 今後ニコンではこれらの技術や考え方を、自社内だけでなく顧客に価値として提供していく方針を示す。現状の主力事業であるカメラ、半導体露光装置に加えて、3つ目の事業の柱として育てていく方針だ。強みである精密加工技術、光関連技術、顧客のニーズに合わせた製品作りが行える点などの特徴を生かして、顧客企業のモノづくりを支援していくという取り組みだ。

 第1に挙げているのが、材料加工分野の顧客向けにデジタルマニュファクチャリング活用そのものをソリューションとして提案するビジネスモデルの構築である。さらに「加工受託サービスを進めていくことも視野に入れている」(馬立氏)。この他、デジタルマニュファクチャリングにおけるビジュアルシステム面で、カメラを人間の眼に置き換えるような取り組みなども検討しているという。

 また、ニコンが強みを持つ領域として、光を使った新たな材料加工技術がある。レーザーによる精密除去加工、3D造形加工を工具に、位置計測・3次元形状計測を目とすることで、より簡便で多様な加工が提供することができる。この取り組みを形にするために、2019年4月には新事業として、光加工機「Lasermeister 100A」をリリースした(※)

(※)関連記事:光学技術に強みを持つニコンが本気で作った“常識破り”の金属3Dプリンタ

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ニコンの光加工機「Lasermeister 100A」(クリックで拡大)出典:ニコン

 「Lasermeister 100A」は、従来刃物で削っていた材料加工を光に置き換えることでさまざまな制約を回避する。また、積層造形技術を組み合わせることで金属の3D造形ができ、通常の造形に加え、既存品への付加造形や補修、金属表面に画像の描画、シリアルナンバーの刻印などのマーキングが可能となったものである。

 これにより「熟練者でもなくても手軽に造形ができるようになる」(馬立氏)。さらに、この光加工機に続いて、より精密な加工が行える金属除去加工機などの開発も行っている。加工と計測の融合を促進することで、さらにデジタルモノづくりの促進を図っていく方針である。

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