同じ動作で出たり引っ込んだりするノック式ボールペンの謎:身近なモノから学ぶ機構設計“超”入門(4)(3/3 ページ)
身近にあるモノを題材に、それがどんな仕組みで動いていて、どんな機構が使われているのかを分かりやすく解説する連載。今回は、末端のキャップを押し込むとペン先が飛び出し、もう一度押し込むとペン先が引っ込むノック式ボールペンの機構に迫る。
なぜ「回転子」は必ず同じ方向に回転するのか?
さて、ここで1つ疑問が残ります。なぜ、回転子は必ず同じ方向に回転するのでしょうか?
前述の内容だけでは、ノック棒を押し込んだときに外カムの斜面に引っ掛からなければ、そのまま同じ溝の中に戻ってしまうだけです。斜面に引っ掛かるまで何度も指で押し込み、芯が出てきたら使う、といった使い方を普段していないはずです。必ず同じ方向に回る仕組みが必要になります。
勘の良い方は既にお気づきかもしれませんが、この役割を担っているのがノック棒の端面に切られたギザギザの部分です。ノック棒は外カムの中を上下に動かすことはできますが、回転はできません。そして、回転子が外カムの溝に収まっているとき、回転子のリブとノック棒のギザギザは図5のような位置関係になっています。
回転子はバネで常に上方向に押されており、回転子のリブが斜面の途中に当たるようになっているため、図6の矢印の方向に回転子の回転する力が常に発生しています。外カムの溝内にリブが収まっている状態では紫の面に当たるため回りませんが、ノック棒に押されて溝から外れると回転子は矢印の方向に回り始めます。
後は、先ほど説明した通り、外カムの斜面を滑りながら回転する、この動きの繰り返しです。回転子のリブが必ず外カムかノック棒の斜面に当たり続け、3部品が絶妙なタイミグで連動することで必ず同じ方向に回り続ける機構を生み出しているのです。
いかがでしたでしょうか。普段何気なく使っているボールペンも、実はあの細い筒の中にいろいろな要素を隠し持っているのです。こうなってくると「4色ボールペンはどうなっているのか?」「シャーペンの芯は何で一定の長さで芯が出せるのか?」など、他の文房具の機構も気になってきますね。どんな機構になっているのか皆さんもぜひ想像し、実際に確認してみてください。
それでは第4回はここまで、また次回お会いしましょう。 (次回に続く)
筆者プロフィール
久保田昌希
1981年長野県生まれ。大学卒業後、大手住宅メーカーの営業職に就くも退職。その後に就いた派遣コーディネーターの仕事で製造ラインの人員管理などを行い製造業に関わりを持つ。その中でもっと直接モノづくりに関わってみたい、自分で製品を生み出してみたいという思いが強くなり、リーマンショックを機に退職。職業訓練で3D CADや製図、旋盤やマシニングセンターの使い方を学んだ後、現在のプロノハーツに入社。比較的早い段階から3Dプリンタを自由に使える環境に身を置けたため、設計をしてはすぐに社内試作を繰り返し、お客さまからもたくさんのご指導を頂きながら、現在では医療機器からVRゴーグルまでさまざまな製品の開発、試作品の製作を受託。その経験を生かし子供たちに向けた3D CADや3Dプリンタの使い方講座なども行っている。
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