深層学習で自動車の「タイヤ力」を可視化する技術を開発、TOYO TIREが発表:タイヤ技術
TOYO TIREは深層学習などのAIなどのデジタル技術を活用して、走行中の路面状態やタイヤの状態に関するデータから、「タイヤ力」をリアルタイムで可視化する技術を開発した。
TOYO TIREはAI(人工知能)技術の1つである深層学習を活用して、「タイヤ力」をリアルタイムで可視化するセンシング技術を開発した。同社が2020年2月7日に東京都内で開催した記者発表会で明らかにした。
タイヤ力とはTOYO TIREが独自に定義した造語で、簡単に言えばタイヤのグリップ力のことだ。TOYO TIRE 技術開発本部 先行技術開発部 設計研究・技術企画グループ 担当リーダーの榊原一泰氏は「『乾いている』『ぬれている』『凍っている』といった路面情報の他、タイヤの空気圧や荷重、摩耗状態、車両の走行速度などの情報を総合し、タイヤ力を推定する仕組みを開発した」と説明する。
また榊原氏は、タイヤ力を把握することの利点について「先の見えないカーブに差し掛かったり、凍結した路面を走行したりする際に、『現在のタイヤ力で安全に運転を続けられるか』を運転手に伝達できるようになる」と語った。
路面情報とタイヤの状態に関する情報は、タイヤとホイールに装着した各種計測機器やセンサーから取得する。これらの情報を深層学習などを活用した「タイヤ力推定モデル」に受け渡し、タイヤ力を推定する仕組みだ。タイヤ力推定モデルはPoC(概念実証)ベースで構築済みだという。このPoCでは、さまざまな条件下での学習データを収集させることでタイヤ力の推定精度を向上させている。なお、タイヤ力推定モデルの構築には、AIを活用したアナリティクスなどを手掛けるSAS Institute Japanが技術協力を行った。
構築したモデルを使って推定したタイヤ力は、グリップ力の現状を示す「点」と限界を示す「円」で可視化している。「点」はタイヤ力が働く向きに応じて上下左右に動く。加速時には車両の進行方向に点が移動し、車両が右に曲がると点は左に移動する、といった具合だ。一方の「円」は安全走行のために必要なタイヤ力の限界値を示している。「点」が「円」の内側にとどまっていれば問題ないが、外側に出てしまうとタイヤがスリップしやすい危険な状態に陥ったことを意味する。
榊原氏は、タイヤ力のセンシング技術は他の技術と組み合わせることで、より効果的に安全走行の支援が行えるようになると説明する。「例えば自動ブレーキ技術と組み合わせた場合、あらかじめタイヤ力を適切に把握できていれば、車両の制動距離をより正確に予測できるようになる。障害物の手前で停止し切れないと予測したら、『停止ではなく回避行動をとるべきだ』と運転手に提案する仕組みづくりも可能になる」(榊原氏)。
なお同氏は、タイヤ力センシング技術を用いた製品やサービスの市場投入時期を明らかにしなかった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- タイヤの設計開発期間を数カ月短縮、TOYO TIREの設計基盤「T-MODE」はAIを融合
TOYO TIREは、AI(人工知能)技術を融合した新たなタイヤ設計基盤技術「T-MODE」を発表。「タイヤの設計開発にかかっていた期間を数カ月単位で短縮できる」(同社 執行役員 技術開発本部長 商品開発本部長の守屋学氏)としており、2019年末から同社内での本格的な運用を開始する方針である。 - ドライバーがいない完全自動運転車、タイヤの状態は誰が見るのか
住友ゴム工業と群馬大学 次世代モビリティ社会実装研究センター(CRANTS)が共同で研究を進めているレベル4の自動運転車に対応したタイヤ周辺サービスについて説明。2020年内に、住友ゴム工業が大型トラックなどのタイヤ空気圧監視を行うタイヤ周辺サービスを、CRANTSがこれまでの研究成果を基にした自動運転サービスを始める方針を示した。 - 新技術がてんこもりの新型「エナセーブ」、住友ゴムが技術説明
住友ゴム工業は2019年11月20日、東京都内で技術説明会を開催し、同年12月1日から販売を開始する乗用車用タイヤ新商品「エナセーブ NEXTIII(ネクストスリー)」の開発に貢献した次世代技術を紹介した。 - タイヤの回転で摩擦発電するデバイス、TPMSの動作が可能
住友ゴム工業と関西大学は、摩擦によって発生する静電気を利用した発電デバイス(摩擦発電機)をタイヤの内面に取り付けて、タイヤの回転に伴う振動によってワイヤレス信号を送信できるレベルの電力を発電できることを確認したと発表した。 - 住友ゴムがタイヤ生産をスマート化、日立「Lumada」とPTC「ThingWorx」を採用
住友ゴム工業、日立製作所、PTCジャパン、AIやIoTを活用したプラットフォームにより、高品質かつ高効率なタイヤ生産を実現するシステムをグローバルに構築するための本格的な協業を開始する。今後は、2025年までに同システムを住友ゴムの国内外12拠点のタイヤ製造工場に導入する計画である。 - 3つの断トツをデジタルで融合、ブリヂストンは「T&DPaaS」でコト売りに移行する
ブリヂストンが主力商材のタイヤを商品の売り切りではなくサービスとして提供していくためのビジネスプラットフォーム「Bridgestone T&DPaaS(Tire & Diversified Products as a Solution)」について説明。「ダントツの商品とサービス、拠点ネットワークをデジタル技術で融合し、ソリューションとして顧客に提供していく」という。