G-SHOCK級のタフネスさを備えた“IoTねじ”が三重苦に直面する現代社会を救う!?:「smartNeji」が目指すもの(3/3 ページ)
NejiLawとカシオ計算機が共同開発を進めている“IoTねじ”、「smartNeji」とは一体どのようなものなのか。NejiLaw 代表取締役社長で発明家でもある道脇裕氏、そしてカシオ計算機に、smartNeji開発の背景とその狙いについて話を聞いた。
インフラが情報化すると世界が変わる
では、smartNejiによってどのような世界がもたらされるのか。
まず、締結時。通常のねじは、適正な締め付け状態をトルクから推定するが、smartNejiならば締め付ける力そのものである軸力で管理できる。smartNeji1本1本の締め具合を“見える化”できるため、締め忘れの防止、締結状況や作業進捗(しんちょく)の把握が、オフサイトでも可能になる。また、締結作業をするだけで、別途センサーを取り付けたり、配線をしたりする必要がないこともポイントだ。
平時には、軸力、応力、加速度、温度の変化を確認できる。これらの情報により、構造体、建造物などにおける部分的、あるいは全体の応力分布や健全性が可視化され、改修や後の改善にも活用することが可能だ。
構造物の危険度レベルや、個別具体箇所の損傷状態が現地に赴くことなく分かれば、これまで調査や点検に要していた時間や人手は大幅に削減されるはずだ。修理、改修が必要な場所の特定や、優先順位付けも容易になり、効率的なメンテナンスの実現、事故予防にもつながる。
災害時にも、さまざまな活用が考えられる。例えば、地震計は加速度を測定する仕組みのため、地震の揺れが収まるとゼロになり、ダメージの状態は分からない。しかし、地震後にも応力がかかっているsmartNejiであれば、建物が受けたダメージの状態もリアルに分かる。
また、台風に伴う強風などで鉄塔が大きく揺れることは、金属疲労やねじの緩みにつながる。smartNejiが測定する応力によって、倒壊などの危険性を事前に察知できれば、早めの避難や停電対策をとることもできるだろう。現在、東京電力の管轄だけでも鉄塔は5万基あるといわれ、災害による被害の把握にも時間がかかってしまうが、鉄塔にsmartNejiが使われていれば、遠隔で短時間に全ての鉄塔の状況を確認できる。
その他、建造物の倒壊や火事の状況も把握できるため、地震時などに最適な避難ルートを見いだしたり、救助戦略を立てる情報として活用したりすることもできる。smartNejiが使われている建造物そのものが、街の状態を知る1つのセンサーの役割を果たすわけだ。
先を見据えたプラットフォーム構想
さらに、NejiLawはその先も見据えている。実は、smartNejiを軸にIoTスマートシステムをプラットフォーム化し、AI(人工知能)を用いて社会インフラなどの常時モニタリングを実現するシステム「God Eyes」(Global Optimized Dynamic Environment Yielded Elastic System)の開発構想も掲げている。その意義について、道脇氏は「インフラ自体を情報化する。労働人口が減少する中で、そうでもしないと維持、発展ができない。インフラ産業に革命を起こしたい」と意気込む。
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