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「Linuxでこれができる」だけじゃない、車載Linuxのデモから見えた実用性へのこだわり車載情報機器

Linuxベースの車載情報機器関連のオープンソースプロジェクトAutomotive Grade Linux(AGL)のメンバーは、消費者向けエレクトロニクス展示会「CES 2020」(2020年1月7〜10日、米国ネバダ州ラスベガス)において、開発現場やクルマの利用者の実用性を強く意識したさまざまなデモンストレーションを披露した。

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スズキのコックピットのデモ(クリックして拡大)

 Linuxベースの車載情報機器関連のオープンソースプロジェクトAutomotive Grade Linux(AGL)のメンバーは、消費者向けエレクトロニクス展示会「CES 2020」(2020年1月7〜10日、米国ネバダ州ラスベガス)において、さまざまなデモンストレーションを披露した。

 開発現場での本格的な活用や、インフォテインメントシステムとしての実用性を強く意識した展示が目立った。

ハイブリッド型音声認識、運転席と助手席の声を聞き分け

 NTTデータMSEは、車載情報機器(エッジ)側とクラウド側が連携したハイブリッドボイスエージェントのデモンストレーションを行なった。同社はNTTデータグループにおいて組み込みソフトウェア開発を担っており、AGLのワーキンググループの1つであるスピーチエキスパートグループにも参加している。

 会場では、クラウド側とエッジ側が連携した音声認識、音声合成を1システムで提供できることをアピールした。デモにはルネサス エレクトロニクスのSoC(System on Chip)「M3」と指向性マイクを使用。クラウドベースで開発してきた音声認識エンジンを、M3に合わせて軽量化しつつ性能を落とさないように実装したという。

ハイブリッドボイスエージェントのデモ。写真手前が指向性マイク(左)。今日の天気を尋ねるなどクラウドの情報も得られる(右)(クリックして拡大)

 指向性マイクは運転席と助手席のどちらから発したウェイクワードかを識別する。運転席から「エアコンの温度を下げて」と話しかけると運転席側の温度を下げるといったきめ細かい操作が可能だ。また、走行中はロードノイズなどで誤検知が起きやすいことを踏まえ、ソフトウェアで音声以外のノイズを除去し、検出率を向上させる。

 音声はエッジ側とクラウド側の両方で処理している。ユーザーのリクエストに対する応答として適切な方を返す設定だが、クラウド側の方が精度が高いことが多いという。また、情報量が求められるリクエストにはクラウド側での処理が、エアコン操作やカーナビのルート設定といった即時性が求められる操作はエッジ側が向くとしている。

 スピーチエキスパートグループにはAmazonも参加しており、AGLの音声認識システムと、企業が独自に開発する音声認識技術が連携するためのインタフェース開発に協力しているという。

ルネサスとIT大手で目指す一気通貫

 ルネサス エレクトロニクスは、AGLで動作する車載情報機器とクラウドが連携するデモを実施した。同社の担当者は「単にできることを実演しているのではない。ITサービスと連携するコネクテッドカーのベースとなるシステムを、下から上まで一気通貫でやろうという思いでAGL活用を進めている」と語る。

 「クラウドの企業側には車載情報機器の知見が、ルネサスにはクラウドの知見が不足していた。クラウドと車載情報機器の間を埋める作業をサプライヤー各社の負担にするのではなく、下から上まで一気通貫の土台をルネサスとIT企業で作り、自動車メーカーやサプライヤーに提供したい。クルマがつながるためのシステムとしてAGLが簡単で早い、差別化となる機能のベースを開発しやすい……という風に浸透させたい。クラウドの企業も、そこでAGLに相乗りしようという姿勢をとっている」(ルネサスの担当者)

 デモでは、マイクロソフトの「Azure」に車両の位置や車速などの走行データをアップロードし、事故の発生や急ブレーキといったイベントがクラウド側でも発見できる様子を紹介した。また、クラウド側からクルマの使われ方(自家用車、ライドシェア、乗合バスなど)を把握し、使い方によって乗員に必要なアプリケーションを配信できるようにする。

AzureでAGL車載器の情報を一覧化するデモ(左)。地図上で事故の情報などを確認できる(右)(クリックして拡大)

 さらに、通信が途切れた場合を想定し、通信が回復するまでエッジ側でデータを保持し、通信が回復した後でクラウド側と同期するといった機能も持たせる。「リアルタイムじゃなくても情報として集められると役立つ場面がある。また、通信状況が悪い場所で事故が起きたときに、1台のクルマが情報を上げられなくても、事故現場を通りすぎた複数のクルマからデータが上がると見えてくることがあるだろう」(ルネサスの担当者)。


コックピット開発向けのリファレンスプラットフォーム(クリックして拡大)

 この他にも、SoCのM3を使ったコックピット開発向けリファレンスプラットフォームもアピールした。拡張性やインタフェース、ヒートシンクなど実車に搭載できることを重視した点が従来の評価ボードと異なるという。

 「購入してすぐ、実機に近いテストができる。BluetoothやWi-Fi、カメラなどの拡張IPも試せる。量産仕様のボードの開発に短期間で移ることができる」(ルネサスの担当者)。メーターはGreen Hills SoftwareのリアルタイムOS「インテグリティ」で、インフォテインメントシステムはAGLで動作する。UIはThe Qt Companyのグラフィックスツールキットでデザインを変更できる。

量産車につながるAGL

 実用性にこだわったデモが目立った中、マツダは「CX-30」にAGLのリファレンスハードウェアをつなげた。

 AGLのリファレンスハードウェアを量産車で動かすのは初めての試みだという。リファレンスハードウェアには、量産車のディスプレイや操作デバイス、ハーネスに対応したインタフェースが備えられており、CX-30の操作デバイスから、AGLのインフォテインメントシステムを操作できる。AGLで開発した機能を量産車に搭載する上での課題の洗い出しに貢献するとしている。

AGLブースにCX-30を持ち込んだマツダ(左)。車内にはAGLのレファレンスボードがつなげられていた(右)(クリックして拡大)

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