データムを必要とする幾何公差【その4】〜姿勢公差の輪郭度〜:産機設計者が解説「公差計算・公差解析」(11)(3/3 ページ)
機械メーカーで機械設計者として長年従事し、現在は3D CAD運用や公差設計/解析を推進する筆者が公差計算や公差解析、幾何公差について解説する連載。第11回はデータムを必要とする幾何公差をテーマに、姿勢公差の輪郭度について取り上げる。
表面粗さの話
鉄鋼やアルミ合金といった金属材料を旋盤やフライス盤、研削盤などで機械加工をする際、素材表面に工具刃の痕が残ります。また、加工によって加工面の肌の状態も変わってきます。
加工面は、基準面になったり、幾何公差によって幾何形状が制約されたりします。筆者は、これまでこの加工面の肌の状態、すなわち「表面粗さ(Surface Roughness)」の表し方とその定義について、ずっと気になっていました。
そこで、JIS検索で「表面粗さ 定義および表示」と入力し、適合する規格を探してみることにしました。
検索結果の「JIS B 0601」から表面粗さの定義について調べてみましたが、2001年に改正されているこの規格の中で、直接的に「表面粗さとは何か」について説明しているわけではありませんでした。
実は、JISにおける表面粗さは「表面パラメータ」として示されています。この表面パラメータには、算術平均粗さ「Ra」、最大高さ「Ry」、十点平均粗さ「Rz」、凹凸の平均間隔「Sm」、局部山頂の平均間隔「S」、負荷長さ率「tp」があります。これらが示す表面粗さの数値は、粗さの限界値となります。一般的には、表面粗さは「算術平均粗さ:Ra[μm]」を使用します。Raは、表面の凸凹をならした値といえます。
真空装置や高圧製品のように“漏れ”が許されないシール部の表面粗さには、「最大高さ:Rz[μm]」が一般的に使用されます。これは、最も高い山と最も低い谷の値から求められるものです。ご存じでしたか? 筆者が入社した当時(1989年)は、この表面粗さを示す記号は三角記号(▽)によって示されていました。「▽▽▽の面粗さのことを、“サンパツ”」などとよくいったものです。その後、2度の規格改正により、現在の記号に至っていますが、いまだに三角記号を使っている図面や企業があるかもしれませんね。
従来の三角記号と、Ra、Rzの関係はどうなのかという解説も必要になりそうですが、「算術平均粗さ(Ra)と従来の表記の関係」で検索すると、多くの資料が見つかるので、そちらを参考にしてみてください。
また、表面粗さの数値は標準数を入れますが、この数値はたくさんあります。何を入れるべきかは、表面粗さを指示する面の機能によって異なります。
ちなみに、表面粗さのゲージ(画像1)を実際に触って確認してみると、その粗さの感覚がよく分かります。
ここ最近でも、製図の基本JISとなっている「JIS B 0001」が2019年5月20日に「JIS B 0001:2019」として改正されています。この規格は、部品図や組み立て図の機械製図において主要なものですので、改正箇所の確認と最新規格への対応は、設計者にとって必須といえます。
また、2019年7月1日に、標準化の対象にデータ、サービス、経営管理などが追加され、「日本工業規格(JIS)」は「日本産業規格(JIS)」となり、法律名も「工業標準化法」が「産業標準化法」に改められています。ちなみに、英語名称「Japanese Industrial Standards(略称:JIS)」は、継続されています。詳しくは、経済産業省のJIS法改正ページをご覧ください。
設計者に直接関わりのあるJISですが、まさか「日本産業規格」という名称に変わっていたとは!? 実は、筆者はこのことに気が付いていませんでした……。気を取り直して、次回元気にお会いしましょう! (次回に続く)
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