「データム記号」の使い方と設計者が身に付けておくべき作法:産機設計者が解説「公差計算・公差解析」(5)(1/2 ページ)
機械メーカーで機械設計者として長年従事し、現在は3D CAD運用や公差設計/解析を推進する筆者が公差計算や公差解析、幾何公差について解説する連載。第5回はデータム記号の使用方法を説明する。
前回は、形体に対しての“曖昧さ”を残さないために幾何公差を設定する際の基準として、「データム(Datum)」が重要な役割を果たすことを解説しました。
このデータムですが、実際の図面(2次元、3次元)上ではどのように表されるのでしょうか。データムは、基準とすべき面(あるいは線や点)に対して付けられます。筆者は普段「データム記号」を表す三角記号として黒塗りのものを使用していますが、白抜きのものもあり、どちらも使用可能です。その詳細については「JIS B 0022−1984 幾何公差のためのデータム」で確認できます。
実は、これまで気が付きませんでしたが、筆者が普段使用している「SOLIDWORKS」でも三角記号が2種類ありました(図1)。
データム記号の向きにかかわらず、アルファベットは必ず図面を見る向きに合わせます(図2)。
これは「製図」を行う上での“作法”ともいえます。この作法について少し脱線しますが、図面を描く方向というものもあります。ベテランの設計者であれば当たり前のように正しく描けますが、まだ経験の浅い設計者だと誤った描き方をしてしまうケースが見られます。
では、ここで問題です。この軸形状部品の図面、左と右のどちらが正しいでしょうか(図3)。
正解は、部品の細い方が右側を向いている図面(図3 左の図面)です。
軸物を加工する旋盤は、通常、材料をチャック(加工機にワークを固定する工具)する部分は左側にあり、刃物は右側にあります。軸の両端を加工するような場合を除き、一般的にはこれが基本となります。2次元図面を「描く/描かない」は別にしても、設計者であればこのような作法は身に付けておくべきでしょう。
実践:配置位置で意味が異なるデータム
さて、図面上でのデータムの配置位置によって、そのデータムが意味する指示領域が異なってしまうことはご存じでしょうか。ここで、凹形状の2つの図面を見てみましょう(図4)。設計者は、「正面図から見た左側面をデータム面にしよう」と考えていたとします(設計者の意図)。
図4の左側の図面は、データムが50mmの寸法の延長線上にありますが、この位置にデータムを配置するということは、正しくは「この50mmの寸法のブロック中立面をデータム面として表している」ことになります。
これに対して図4の右側の図面は、寸法線の延長線上にはなく、設計者が意図するように、正しく50mmの寸法を持つブロック端面をデータム面として示しています。意図的に左側の図面のように中立面をデータム面として設定したいのであれば、問題ありませんが、そうでなければ、この図面による加工は設計者が意図するものにはなりません。
社内の図面を探してみると、案外このような図面が見つかるかもしれません。その理由も、図面の見栄えが良いからという理由であったり、理由もなく設定されていたりすることもあるので、一度確認することをオススメします。矩形(くけい)の部品と同様に、軸形状の部品も注意が必要です。
では、図5はどうでしょうか。この場合、データムの領域は円筒面(外周)になります。
また、図6のケースでは、データムの領域は中心軸または中心軸を通る平面になります。
中心軸または中心軸を通る平面をデータムとしたい場合、図7のような指示でも問題ないように思えますが、JIS規格の改正によって、テーパ形状の軸線をデータムとする場合を除き、データム記号を中心線に直接図示することは認められていません。確かに、JIS規格の図ではテーパ形状の軸線のみ図示されています(図8)。
実は筆者自身、この情報を把握できていませんでした。世界で通用する図面を描いていくためには、JIS規格の改正内容についても常に確認しておく必要がありそうです。これもまた、2次元図面/3次元図面ということではなく、共通の作法(知識)であるといえるでしょう。
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