学生フォーミュラの「デザイン審査」で何が問われるか、知っていますか:車・バイク大好きものづくりコンサルタントが見た学生フォーミュラ2019(4/4 ページ)
2019年の学生フォーミュラレポートも今回で最終回。実は今大会開催の1カ月ほど前に、2012年大会で横浜国立大学フォーミュラプロジェクトのリーダーを務め、その後中小企業の雄、由紀ホールディングスで開発の仕事をされている曽根健太郎氏から「デザイン審査員さんにインタビューしませんか?」といううれしいお話を頂いた。
ベスト三面図賞の意義
S 表彰項目の中に「ベスト三面図賞」がありますよね? 私は3D設計すれば2D図面は不要、というか日本から早く紙の図面を無くしたいという考えを持っているのですが、そのあたりはいかがでしょう?
K デザインレポートの巻末に付いている三面図を評価するんですが、当初は本当にただ3D図面から2D図面に単純に落としたものだったんです。でも、ドライバーの着座位置とかのパッケージングは3Dより2Dの方が分かりやすいんですよね。ですから三面図のクオリティーも評価するようにしました。これは米国のSAE(自動車技術会)でも同じ動きをしています。
K 今年(2019年)は京都大学が1位、芝浦工業大学が2位でした。芝浦工業大学は多くの情報を入れ過ぎた傾向があります。コックピットから見える視界なども表現されていて、伝えたいことは分かるんだけど、紙に余白がほとんどなく煩雑になってしまったところがマイナス評価されました。
S 芝浦らしいなぁ。私も機械工学科だったので、製図の課題を終わらせるのに大学での時間では足りずに家で製図するためにA0判のドラフターを親に買ってもらいましたもの。
審査員は楽しい!
S では最後にお聞きしたいのですが、なぜ11年もボランティアでこの審査員を続けられているのでしょうか?
K 実は私、ムーンクラフトという会社にいたんですよ。
S あ、知ってます! 有名なデザイナー由良拓也さんの会社ですよね?
K なぜ入ったかというとレーシングカーを作りたかったんです。当時は「F1に出るぞ!」なんて旗印を上げながらF3000のマシンを作っていたんですね。しかも5〜6人の少人数で、かなり自由にふるまえる。私は大学を出た3カ月後に風洞実験を任されたんです。ヤマハOX-99の風洞実験は私が担当だったんですよ。
S F1用のV12型エンジンを搭載したロードゴーイングカーですよね。結局市販には至りませんでしたが(推定予価1億円)。先日ヤマハ発動機の袋井テストコースで走っているのを見ました。美しいデザインですし、排気音が最高でした。
K 仕事はすごく楽しかったんですが、やはり日本ではレーシングコンストラクターが成立するのは難しく、退社して自分一人で設計の仕事を始めました。ある時、ムーンクラフト時代の上司、宮坂さんから連絡をいただいて、「影山君、最近レースの仕事していないよね? こんなのあるけどやってみない?」と学生フォーミュラのデザイン審査員に誘われたんです。はっきり言って人手不足だったんでしょうけど、やってみたらこれが面白い。100チームくらいのマシンを実際に評価するわけですが当然一台一台全部違う。口には出しませんが、「あ〜私だったらこうするのにな」なんて思いながら審査するのは、やはりレーシングカーを作っていた経験のある人間には面白いんです。
K チームの変遷を見ていくのも楽しいですね。今年はずいぶん進歩したなとか。それといろいろな方とお会いする機会が持てるのもうれしいことです。東京R&Dを立ち上げた小野さんなど自分が幼いころに雲の上にいたような方と話ができたし、自動車メーカーの技術者の話なんて非常に興味深いです。そういう方々と交流できる機会なんて私のような仕事をしていたらなかなか持てないじゃないですか。今日なんてまた関さんとお会いできたわけだし(恐縮です)、曽根君とも学生と審査員という立場から始まって、もう長いことつながりが持てている。やはりこれをやっていると楽しい!
S 私がMONOistに学生フォーミュラの記事を初めて書いたのが2011年です。その数年後に京都工芸繊維大学のピットに取材に行ったら「わ! やっと関さんが来てくれた!」と大歓迎を受けたのを覚えています。
K 学生フォーミュラを継続的に取り上げてくれているのはMONOistさんとMotor Fun Illustratedさんくらいなんですよ。だから取材を受けるのはうれしいのでしょう。
SN MONOistはみんな見ていますよ。間違い探ししたり(笑)
S わ、それきついなぁ(汗)。何度か大きな間違いしていますからね。ばね下マウントを「ばね上」と書いちゃったり、ニューモデルマガジンXの連載コラムで、初めてカラーページにしてもらった時に、優勝校の名前を間違えたり……。
K 不安な時は遠慮なく言ってくださいね。校正させていただきますから(笑)
S 本日は貴重なお時間をありがとうございました。
全員 また来年お会いしましょう!
35分ほどお話をお聞きすることが出来ました。技術だけでなく多方面での内容となりましたが、エントラントの皆さんのお役に立てれば幸いです。また来年、皆さんのピットにお邪魔いたします!
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ≫2007年以降の学生フォーミュラの記事一覧
- カーデザイナーの仕事は「色や造形を考える」だけではない
デザインには「誰のためにどんな価値を提供するのか。その導線としてどのような体験が必要か」といったコンセプトと、「そのコンセプトを具現化するにはどのような姿形が必要か」というスタイリング、2つの側面がある。カーデザインも、コンセプトを描き、提供する価値の“メートル原器”を作るところから始まる。 - たった1年で、大きく変わる学生たちとクルマ
- 学生もEV開発に試行錯誤、先輩から後輩への技術伝承も課題に
ラグビーワールドカップで日本がアイルランドに勝利し、沸きに沸いた静岡県袋井市・掛川市内の小笠総合運動公園(通称「エコパ」)。その約1カ月前の8月27〜31日に「第17回学生フォーミュラ日本大会2019」(以下、学生フォーミュラ)が開催されました。2019年もピットレポートを中心に学生さんの熱き活動を伝えていきたいと思います。 - 出身者と現役が語る「学生フォーミュラで培われる“現場力”」
学生がクルマ作りの総合力を競う「学生フォーミュラ」。クルマ作りの過程での厳しい経験を踏まえた人材は、社会人でも活躍するという声が多い。学生フォーミュラではどんな“現場力”が身に付くのだろうか? - 波乱の学生フォーミュラ2019、名工大が安定感ある走りで優勝
「学生フォーミュラ日本大会2019」が2019年8月27〜31日にかけてエコパ(小笠原総合運動公園、静岡県袋井市・掛川市内)で開催された。強豪校がマシントラブルに見舞われる中、名古屋工業大学が動的審査のエンデュランス(約20kmの耐久走行)で圧倒的な走りを見せ、悲願となる初の総合優勝を遂げた。