市場は成長するが熟練技術者がいない――遠隔作業支援に期待するダイキン:製造マネジメントニュース
フェアリーデバイセズとダイキン工業は2019年11月21日、空調機の保守点検業務などの遠隔作業支援ソリューションを共同開発すると発表した。
フェアリーデバイセズとダイキン工業は2019年11月21日、空調機の保守点検業務などの遠隔作業支援ソリューションを共同開発すると発表した。フェアリーデバイセズが開発したウェアラブルデバイスプラットフォームと、ダイキン工業が開発した業務支援Webアプリケーションを組み合わせ、高品質な現場業務の実現と優れたサービスエンジニアの早期育成を目指す。
フェアリーデバイセズは、「使う人の心を温かくする一助となる技術開発」を目指す東京大学発のベンチャー企業。2007年に設立された同社は、音声信号処理や自然言語処理に強みを持つ。現場から生まれる各種のデータ解析や、それらに関わる業務システムをデバイスからクラウドまで一気通貫で提供する「コネクテッドワーカーソリューション」を立ち上げ、現在は各業界をけん引するパートナーとともに業界特化型のソリューション開発を重ねている。
ダイキン工業との共同開発では、空調機器業界や同社の現場が抱える課題の解決を目指した。グローバルにおける空調機器市場は今後も活発な成長が見込まれており、「2050年までに空調機器のストック台数は3倍に伸びるとの予測がある」(ダイキン工業 テクノロジー・イノベーションセンター長 米田裕二氏)という。その一方で、機器の据え付けや点検整備など、現場作業を素早く正確に行える熟練技術者は不足傾向にある。
熟練者の不足はコストや機会損失の増加につながる。業務の属人化が進み、熟練者が非コア業務に追われることやノウハウが消失してしまう恐れもある。また、世界各国の技術者で知識や経験の差があり、日本人の熟練技術者が技術を伝承しようにも言語の壁に阻まれることもあったという。
これら課題に対して、フェアリーデバイセズが持つ音声認識やエッジAI(人工知能)、データ解析技術と、ダイキン工業がグローバル規模で培ってきた現場の知見を組み合わせ、現場のデジタルトランスフォーメーションを実現する遠隔作業支援ソリューションの開発を両社共同で開始した。
同ソリューションは、フェアリーデバイセズが開発したウェアラブルデバイス「THINKLET(シンクレット)」とそのプラットフォーム、ダイキン工業が開発した業務支援Webアプリケーションが中核になる。シンクレットは5個のマイク、超広角カメラ、音声処理などを行うエッジAIライブラリ「mimi XFE」、LTE/Wi-Fi通信機能などを内蔵した、画面のないスマートフォンに近いデバイスとなる。シンクレットは雑音環境下でも装着する技術者やその対面者の声を精度よく抽出でき、技術者の音声や作業映像、ウェアラブルセンサーのデータを収集し、クラウドに蓄積する。
熟練者はリアルタイムに送信されるデータから、口頭での助言や画像での指示を行える。1人の熟練者は最大5人までの技術者を遠隔支援でき、作業手順書のデータ共有や音声認識によるリアルタイム会話表示といった機能も備える。また、今後は空調専門用語やダイキン工業で良く用いられる社内専門用語に対応したリアルタイム翻訳機能、報告書自動作成機能などを追加する方針だ。
ダイキン工業は、同ソリューションの試験導入を「約半年前から進めてきた」(米田氏)とし、「ダイキンの販売店やサービスの現場で使ってきた。また、サービス現場で使う他、設備点検の現場でも使えるのではないかという話が社内で出ている」と語る。今後の導入規模については「少なくとも数千(デバイス)というレベルではない。数万、数十万(デバイス)や、グローバル規模で導入するともっと数が増えるのではないか」との方針を示し、同ソリューションへの期待感をにじませた。
また、フェアリーデバイセズは空調機器業界の他、交通運輸、報道、建設といった各業界でのリーディングカンパニーと協業でのソリューション開発を目指す考え。2020年夏までに国内数十社への展開をにらみ、現在は先行導入を進める5社との協業を進める。なお、現時点では協業先として、シンクレットを数百台以上導入することを見込む企業が対象になるという。
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