AR活用でトレーニングコストを年間50万ドル削減、Aggrekoが取り組んだ業務改革:LiveWorx 2019(1/2 ページ)
米国マサチューセッツ州ボストンで開催されたPTC主催の年次テクノロジーカンファレンス「LiveWorx 2019」の分科会セッションにおいて、電力や温度制御の専門企業であるAggrekoがAR(拡張現実)を活用した技術者トレーニングの取り組みについて紹介した。
米国マサチューセッツ州ボストンで開催されたPTC主催の年次テクノロジーカンファレンス「LiveWorx 2019」(会期:2019年6月10〜13日)の分科会セッションにおいて、電力や温度制御の専門企業であるAggreko(アグレコ)がAR(拡張現実)技術を活用したエンジニアトレーニングの取り組みについて紹介した。
トレーニング効果を維持したままコストを下げるには?
Aggrekoが提供する仮設電源設備(発電機)およびサービスは、スーパーボウルやFIFAワールドカップといった世界的スポーツイベントの他、大規模なインフラ、建設工事など、世界200カ所以上の現場で活用されている。
世界各地にいる現地のサポートエンジニアは設備の異常やダウンタイムの発生を抑えるために、保守やトラブルシューティング、修理作業を効率的に行わなければならない。しかし、取り扱う仮設電源設備は複雑なものが多く、種類も豊富であるため、深い専門知識や柔軟な対応力が求められる。
そこで必要になるのがサポートエンジニアのトレーニングだ。Aggrekoでは膨大な数のテクニカルトレーニング講座を実施し、サービス品質の向上に努めてきた。しかし、世界各地に散らばるサポートエンジニアを集めてトレーニング講座を行うため、宿泊費や交通費を含めるとかなりのコスト負担となってしまう。Aggrekoの試算によると、1人当たり1日300ドル程度かかり、3日間のトレーニングで15人が参加した場合、トレーニング講座を1つ開催するだけで1万ドル以上必要になるという。実際、約300ものトレーニング講座があるため、その規模は非常に大きなものとなる。
「社内的に、トレーニング効果を維持したままコストを下げる手段はないかと強く求められていた。そこで、その解決策としてAR技術の活用に目を付けた」とAggreko トレーニング スペシャリストのアレハンドロ・カスティージョ(Alejandro Castillo)氏は語る。カスティージョ氏のこの考えは、トレーニングのために人間を送り込むのではなく、人間にトレーニングを送り込めたらコストを抑えられるのではないか? というもので、AR技術に着目し検討を開始したのだという。
トレーニングコストの削減効果は年間約50万ドルに
実際にARトレーニングを導入するにせよ、その前段階での検証を行うにせよ、プロジェクト予算を確保しなければ始まらない。「いざ、AR技術を活用してトレーニングを行うとなると、設備や環境、人的リソースなど必要なものがいろいろと出てくる。新規プロジェクトに予算を割くというのは投資をするのと同じことなので、必ずと言っていいほど上層部からROI(投資対効果)について聞かれる。だから、得られる効果についてはしっかりと示さなければならない」(カスティージョ氏)。
この壁を突破するためには、ARトレーニングのターゲットをどこにするかを定める必要があり、かつ最も効果が期待されるであろうセクションに絞ることが重要だという。カスティージョ氏は「Aggrekoで『テクニシャン』と呼ばれるサポートエンジニアの業務領域であれば良いトレーニング効果が得られると考えた。AR空間であれば人の移動や200tもの設備を設置する必要がないので、大きなコスト削減効果が見込める」と、まずはしっかりとその効果を示すことの重要性を訴えた。
ターゲットが決まり、プロジェクトも予算化され、そこからマイクロソフトの「HoloLens」を用いた検証を開始。しかし、1つのトレーニング講座で15台程度のHoloLensが必要で、1台当たり約5000ドルとすると、投資効果もマイナスになってしまう。「これでは無理だと考え、既に業務用端末として配布されていた『iPhone』で行うことに決めた。ハードウェアが用意されていた点はラッキーだった」(カスティージョ氏)。
ちなみに、当初従来のリアルなトレーニングの方が好まれ、ARトレーニングは受け入れてもらえないと考えていたようだが、実際には賛同者も多かったという。また、テクニカルトレーニング講座の数はかなり多いが、その効果を比較するため、AR向けに新規にトレーニングを開発することはしなかったとのことだ。
その後、実証実験や検証を進めた結果、「AR技術の導入によるトレーニングコストの削減効果は年間約50万ドルにもなった」とカスティージョ氏は述べる。
また、AR技術をトレーニングに活用することで、離職率の低減が図れるという。「情報提供のやり方で、エンジニアのモチベーションや業務への関心度合いも大きく異なってくる。ARでトレーニングすることで適切な情報提供が可能となった。さらに、インストラクターの存在も不要になるため、トレーニングに一層集中できるようになった。作業によっては危険な薬品を扱うこともあるので、安全性やリスク排除という観点からもその有効性が証明された。この時点で、われわれは投資効果が十分に得られることを確信した」(カスティージョ氏)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.