HVやEVのバッテリー管理システムでどのようにアンプを使うか:電源システム解説(2/2 ページ)
HEVとEVのBMSでは、多くの場合アンプの柔軟性とコストメリットが見過ごされていると考え、本稿では、BMSに焦点を当て、このシステムで設計者がどのようにアンプを使用しているのかについて説明します。
バッテリーの電圧センシング
電流とまったく同じように、バッテリーの電圧も監視する必要があります。絶縁型電圧センシングでは、抵抗分圧器がバッテリーからの高電圧をアンプの同相入力範囲へと分圧します。絶縁アンプは分圧された電圧を検出します。また、差動アンプ構成で使用されるオペアンプは、絶縁アンプからの差動出力信号をシングルエンド出力に変換します。絶縁の必要がない場合は、差動アンプ構成のオペアンプで電圧のセンシングを直接実行できます。
図5は、絶縁アンプとオペアンプを使用した絶縁型の電圧センシングを示しています。絶縁アンプは、ホット側とコールド側を絶縁し、ゲイン1で差動信号を出力します。オペアンプは、差動信号をシングルエンド出力に変換し、ADCのフルダイナミックレンジに合わせてゲインを適用します。この電圧がコールド側マイコンのADCに供給されます。
BMS専用に設計された電源用ICによって、個々のリチウムイオンセルの電圧を追跡し、充電状態をバランスさせます。デイジーチェーン接続されたこれらの電源用ICは、全てのリチウムイオンセルの電圧を同時に測定し、全てのセルの電圧をバランスさせてその情報をマイコンに伝送します。
絶縁リーク電流の測定
前述のように、200〜800Vの高電圧側は、車両のシャシーグラウンドや低電圧ドメイン(12Vおよび48V)から絶縁されています。絶縁破壊テストによってバッテリーの電圧およびリーク電流を測定すると、結果的に高電圧レールと低電圧シャシーグラウンドとの間の抵抗やリークを測定することにもなります。
絶縁破壊テストについて説明しましょう。図6に示すように、抵抗を含む既知のパスで絶縁バリアを一時的に短絡させます。正極側のリレーS1、負極側のリレーS2で1度に1回ずつ絶縁破壊を発生させると、既知の絶縁抵抗と測定された抵抗を比較することによって、絶縁バリアを通るリークが分かります。この時、欠陥や破損によって高電圧バッテリーの正極側または負極側からリークする電流のパスを確認しておく必要があります。
例えば、S1を閉じたときに負極側でリークがない場合、ISO_POSの電圧はVref(基準電圧)と等しくなります。負極側にリーク電流があると、ISO_POSの電圧はVrefと等しくなりません。閉ループのゲインはRps1、Rps2、Rs1を通るため、バッテリーの正極側および負極側から低電圧側グラウンドへと流れるリーク電流が原因となります。入力バイアス電流が小さいオペアンプは、反転入力に接続されているインピーダンスが非常に高い(MΩレベル)ため、このような用途に適しています。
温度の監視
HEVやEVには高電圧、高電流が必要であるため、消費電力が増加して温度が急上昇する可能性があります。バッテリーおよびその周囲のシステムの温度を監視して消費電力が過剰にならないようにすることは、絶対に必要なことです。バッテリー異常によって消費電力が増大した場合には、バッテリー制御ユニットがバッテリーをシステムから遮断して発火や爆発を防ぎます。
こうしたケースで費用対効果の高い温度センシングソリューションとして、抵抗と直列に接続した負温度係数(NTC)サーミスターからの信号を、オペアンプを使用してバッファリングする方法があります。BMSとバッテリーは大きな面積を占有するため、このシステム全体で温度が均一にならない可能性があるため、温度が不均一な場合には、BMS全体に複数のセンシングユニットを配置しなければなりません。
このとき、複数のユニットからの信号を多重化してADCやマイコンの1本のピンに入力するためには、信号のコンディショニングが必要です。またこれらの信号は、ADCのフルダイナミックレンジに合わせるためにバッファリングして増幅しなければなりません。図7は、バッファアンプまたは非反転アンプ構成で使用されるオペアンプを示します。このような用途には、適切なオフセットとオフセットドリフトがある低コストの高電圧用オペアンプが適しています。
インターロックの監視
インターロックとは、HEVやEVの一連のサブシステムを通過する電圧/電流ループシステムです(図8参照)。インターロックは、BMSからスタートし、インバータ、DC-DCコンバーター、OBCを通過してBMSに戻ることによって、高電圧システムの改変、開放やサービスハッチの開放を監視します。インターロックシステムが高電圧線を遮断して人身事故を防止する方法もあります。
インターロックループには、ほとんどの場合、パルスで送信されるセンシング電流が使用されるため、高精度の測定は必要ではありません。コンパクトさが必要なソリューションでは、計装アンプが使用される場合があります。また、最も経済的なソリューションは、オペアンプとディスクリート抵抗を用いた差動アンプ構成の電流センシング回路の使用です。インターロックループは、大電流が流れるループではありません。そのため、消費電力が増大するリスクなしで高抵抗値のシャント抵抗を使用することができます。安全機能と診断機能には、メインのシステムが故障した場合に対応できる冗長性が必要です。また、故障している可能性のある箇所を全て検出する場合にも、2次的な電圧、電流センシングが必要な場合が多いため、低コストのソリューションの採用がより現実的になってきます。
まとめ
ここまで、アンプを使用したBMSの標準的な機能について説明してきましたが、システムの設計によっては、オペアンプを使用してさらに多くの機能を実現できる場合もあります。新しい、またはあまり一般的ではない設計で、集積回路を使用するソリューションがない場合には、オペアンプの採用がより現実的なソリューションになります。HEVやEVに搭載されるシステムはますます進化を続けています。オペアンプによって即効性があり高精度かつ柔軟な解決策が得られる状況は、今後ますます増えてくると考えられます。
著者紹介
Sanjeev Manadhar
applications engineer, general-purpose amplifiers, Texas Instruments
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