高級車から広がる48Vシステム、ディーゼルエンジンに代わる環境技術に:いまさら聞けないクルマのあの話(4)(1/3 ページ)
聞いたことはあるけれど、正確に知っているかといわれると自信がない……。クルマに関する“いまさら聞けないあの話”を識者が解説します。第4回は、ディーゼルエンジンに対する逆風が強まる中、製品化が相次いでいる「48Vシステム」です。48Vシステムの特徴とは一体何でしょうか。
欧州を中心に駆動用電源の電圧を12Vから48Vへ高めたマイルドハイブリッドシステムが注目を集めている。日本では500V以上に昇圧した高電圧のフルハイブリッドシステムが主流だが、欧州では安全対策などを含めて安価に実用化できる48Vシステムの普及に向けた動きが広まっている。ディーゼルエンジンに対する逆風が強まる中、将来的な電気自動車(EV)へのシフトを横目にコスト競争力の高い48Vシステム搭載車の量産が始まるなど、電動化戦略を巡る日本と欧州の主導権争いが激化している。
なぜ48Vなのか
駆動用電源は、電圧を高めることでモーター出力を向上できる他、電流を下げることによる配線の損失低減でシステム効率を高めるなど、さまざまなメリットがある。一方で、高電圧化は電源システムの大型化によるコスト増の他、安全対策も必要となる。特に人体へ影響を与えるといわれる60Vを超えると高電圧に分類されるため、安全対策が必須となり、結果としてコスト増につながる。
その中で生まれたのが48Vを使ったマイルドハイブリッドシステムという発想だ。低電圧のマイルドハイブリッドシステムという構想自体は以前から存在しており、1990年代には考案されていた。ただ、当時は電装システム全体を42V(バッテリー電圧で36V)に統一しようとしたため、既存の12Vの電装システムが使用できなくなるのでコストが上昇するとサプライヤーからの反対が相次ぎ、普及には至らなかったいきさつがある。トヨタ自動車も「クラウンセダン」などにマイルドハイブリッドシステムを設定したものの、燃費向上などのメリットが少なく現在はフルハイブリッドシステムに一本化している。
シェフラーとコンチネンタルは48Vマイルドハイブリッドシステムの開発で協力している。写真左の車両はバイワイヤのクラッチを搭載し、エンジンとトランスミッションの間に配置したモーターによって、EV走行や加速のアシスト、停止時のエアコン作動、エンジンと駆動輪を切り離す「コースティング」を実現する。写真右の車両は、ドライブシャフトをなくした代わりに後輪に電動アクスルを配置した四輪駆動車だ。コースティングやモーターによる後輪駆動での走行、加速のアシスト、後輪のトルクベクタリングに対応している(クリックして拡大)
現在の48Vシステムは、ドイツメーカーが中心となって主導している。2011年にVolkswagen(VW)、Daimler(ダイムラー)、BMW、Audi(アウディ)、Porsche(ポルシェ)の5社が48Vの車載電源規格「LV148」を策定。これを受けてRobert Bosch(ボッシュ)やContinental(コンチネンタル)、Schaeffler(シェフラー)、Valeo(ヴァレオ)などの欧州メガサプライヤーが相次いで開発に乗り出した。
48Vシステムは、リチウムイオン電池や、発電と駆動を兼ねるモータージェネレーター、DC-DCコンバーターなどで構成している。エンジン補機類に48Vを使用する一方で、内装などの電装システムには従来通り12Vを使用する。このためフルハイブリッドシステムと同様に2系統の電装システムを搭載する点が特徴といえる。
48Vを用いたマイルドハイブリッドシステムは、駆動自体は基本的にエンジン出力が中心で、クリープ走行やスタート時などエンジンが苦手とする回転域でモータージェネレーターによるトルクアシストを行う。減速時にモータージェネレーターで作られた電気はトルクアシストのほか、電動過給器や補機類などにも使用する。これによりエンジンの負荷を軽減して燃費を向上させる仕組みとなっている。フルハイブリッドに比べて安価な上、15〜20%程度の燃費向上が見込める他、エンジンが苦手とする低回転域の駆動力を補うことができる。
48Vは電動過給器や、大電力を必要とするさまざまな装備に利用
すでに欧州ではプレミアムブランドを中心に48Vシステム搭載車の市場投入が相次いでいる。アウディは2016年、フラグシップSUVのハイパフォーマンスモデル「SQ7」にV型8気筒、排気量4.0l(リットル)のディーゼルエンジンと48Vシステムを組み合わせて投入した。ただ、SQ7の48Vシステムはマイルドハイブリッドではなくサブ電源という位置付けで、世界初の電動過給器や電動スタビライザーなどの電力供給に用いている。
一方、アウディでは48Vのマイルドハイブリッドシステムも展開しており、2017年に発表したフラグシップセダンの新型「A8」に採用した。同システムではエンジンの前側に搭載した水冷機構を備えたベルト式オルタネータースターター(BAS)により、クランクシャフトとベルトを接続してトルクアシストを行う。BASは最大12kWの電力回生と、60Nmのトルクを発生する。
アウディでは今後、同システムを幅広く導入していく方針を掲げており、48Vの他、同様のシステム構成とした12V版のマイルドハイブリッドシステムも展開していく。さらに将来的にはポンプやコンプレッサーなどの補器類からウィンドウヒーターやオーディオシステムといった大電力を必要とするさまざまな装備にも48Vを活用することで、性能向上や電源システムの小型軽量化を図り、付加価値を高めていく狙いだ。
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