余った外貨を電子マネーに交換できる「ポケットチェンジ」が乗り越えたモノづくりの壁:ストラタシス 3Dプリンティングフォーラム 2019(2/2 ページ)
海外旅行で余った外貨を自国で使える電子マネーなどに交換できるサービス「ポケットチェンジ」。モノづくりの経験がなかったベンチャー企業がどうやってポケットチェンジを実現させたのか? 「ストラタシス 3Dプリンティングフォーラム 2019」で披露された講演の模様をお届けする。
また、モノづくりに挑戦してみての総括として佐々木氏は「まずは作ってみるということが重要。これはベンチャー企業がもともと得意としている部分なので、モノづくりにおいてもその姿勢は必要だ。また、カタチにしたものに“意味のある数字”を持たせることで、モノの魅力を社内外に伝える努力もしなければならない。後はリリースしてみなければ分からないため、モノづくりにおいてもアジャイル型の開発で小さく積み上げていくことも必要だ」とし、こういった考えから「ポケットチェンジの開発に3Dプリンタを活用することが非常にフィットした。3Dプリンタがなかったらまだポケットチェンジの端末を世に送り出せていなかったのではないか? というくらい3Dプリンタをフル活用している」(佐々木氏)。
イノベーティブなモノづくりに欠かせない3Dプリンタ
その言葉の通り、ポケットチェンジの開発では積極的に3Dプリンタが活用されている。それは単なる試作だけではなく、最終製品のパーツ製造も含んでおり、現場への実導入後も改善を繰り返し、新たなパーツを3Dプリンタで製造して、取り換えるということが当たり前のように行われている。
例えば、硬貨投入口や電子マネーのタッチ部といった実際にユーザーが直接触れる部分にも3Dプリント製パーツを採用する他、硬貨の仕分けを行う内部機構も3Dプリンタで作られている。
「まだ設置台数が少ないころは、ホビーユースのFDM(熱溶解積層)方式3Dプリンタでパーツを製造していたが、台数も増え、安定した品質の3Dプリント製パーツを製造したいというニーズも高まり、ストラタシスのFDM方式3Dプリンタを導入するに至った」(佐々木氏)。また、わずかな数であれば自分たちでパーツを造形するが、まとまった保守パーツが必要な場合などは、ストラタシスが展開する造形サービス「DFP(Digital Factory Portal)」を活用しているという。
「よく『3Dプリント製パーツを最終製品に(ユーザーの目に見えるところに)使っている』というと驚かれるが、ユーザーはサービス利用が目的なのでそれほど気にしていない。ポケットチェンジは全て自社サービスであり、装置の出荷台数もサービスを開始してから4年弱で約50台と少ないため、3Dプリンタによる活用メリットを多く享受できている。試作/開発のスピードはもちろんのこと、量産においても金型を起こすことなく、3Dプリンタでパーツ製造が可能なため、スピードとコストの両面で効果を実感できた」(佐々木氏)
また、3Dプリンタならではの工夫として、“パーツの色分け”によるメンテナンス性向上を挙げる。「何かトラブルが発生した場合、ポケットチェンジは設置場所の担当者が一次対応するため、メンテナンス性が重要となる。3Dプリンタであればパーツごとに自由に色分けできるため、一次対応者から問い合わせがあった場合も『白いパーツを外して、赤いケースを持ち上げて〜』といった具合に分かりやすく指示ができる。こうしたアイデアをすぐにモノに落とし込める点も3Dプリンタのメリットといえるだろう」と佐々木氏は述べる。
最後に、イノベーティブなモノづくりに必要な視点として、佐々木氏は「モノづくりはWebアプリケーション開発以上に初期投資に時間とコストがかかるため、どうしても冒険しにくく、堅実なものを作ってしまいがちだ。また、ビジネスとしての説明のしやすさから『モノありき』『技術ありき』でスタートしてしまうことも多く、どうしても世の中にあるものに縛られてしまう傾向にある。必要なことは、とにかくアイデアに形を与えてやること、そして、それを早く市場に出してデータをためることだ。イノベーティブなモノづくりを実現するには、このサイクルを早く回すことが重要となる。その際、3Dプリンタの活用が不可欠となる。試作開発のみに活用するのはもったいない」と聴講者に訴え掛けた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- フルカラー&マルチマテリアル対応3Dプリンタの新製品「Stratasys J850」登場
ストラタシス・ジャパンは、フルカラー&マルチマテリアル対応のPolyJet方式3Dプリンタの新製品「Stratasys J850」を発表。これに併せて年次イベント「ストラタシス 3Dプリンティングフォーラム 2019」の会場で実機の展示デモを披露した。 - エポック社のカプセルトイが攻め過ぎている理由【後編】
エポック社のカプセルトイ「カプセルトイができるまで」をご存じでしょうか。成形金型、塗装用のマスク型とスプレーガン、そして梱包用の段ボールと、実際のカプセルトイができるまでの各工程をミニチュア化した製品。そんな斜め上を行く「カプセルトイができるまで」の誕生秘話やカプセルトイづくりの難しさについて、担当者に話を聞いてきました。 - 日野のコンセプト「FlatFormer」のエアレスタイヤ製作を支えた3Dプリント技術
日野自動車が「第46回東京モーターショー2019」に参考出品したモビリティコンセプト「FlatFormer」のエアレスタイヤのモデル製作に、ストラタシスの産業用3Dプリンタ「Stratasys F900」が採用された。 - いまさら聞けない 3Dプリンタ入門
「3Dプリンタ」とは何ですか? と人にたずねられたとき、あなたは正しく説明できますか。本稿では、今話題の3Dプリンタについて、誕生の歴史から、種類や方式、取り巻く環境、将来性などを分かりやすく解説します。 - 3Dプリンタは臨界点を突破したのか
新たなモノづくりの姿を示す象徴として「3Dプリンタ」は大きなムーブメントを巻き起こしている。しかし、3Dプリンタそのものは既に1980年代からある技術で過去には夢を追いつつも突破できない壁があった。かつての研究の最前線から今のムーブメントはどう見えるのか。東大名誉教授で現在は世界最大のEMSフォックスコンの顧問も務める中川威雄氏に話を聞いた。 - 「単なる試作機器や製造設備で終わらせないためには?」――今、求められる3Dプリンタの真価と進化
作られるモノ(対象)のイメージを変えないまま、従来通り、試作機器や製造設備として使っているだけでは、3Dプリンタの可能性はこれ以上広がらない。特に“カタチ”のプリントだけでなく、ITとも連動する“機能”のプリントへ歩みを進めなければ先はない。3Dプリンタブームが落ち着きを見せ、一般消費者も過度な期待から冷静な目で今後の動向を見守っている。こうした現状の中、慶應義塾大学 環境情報学部 准教授の田中浩也氏は、3Dプリンタ/3Dデータの新たな利活用に向けた、次なる取り組みを着々と始めている。