CRMだけではない、“製造業に寄り添う基盤”を目指すセールスフォース:製造マネジメント インタビュー(2/2 ページ)
セールスフォース・ドットコムは2019年9月に製造業向けソリューション「Manufacturing Cloud」の提供を開始した。なぜセールスフォース・ドットコムは業種別ソリューションを強化するのか、製造業にとってのメリットは何か、同社 製造業・自動車業界担当バイスプレジデント&チーフソリューションズオフィサーであるアチュート・ジャジュー氏と、同ソリューションのパイロットユーザーであるMipox 代表取締役社長の渡邉淳氏に話を聞いた。
研磨材メーカーMipoxのデジタル変革
ここからは、SFDCのパイロットユーザーとしてデジタル変革などに取り組む、研磨材メーカーMipoxの代表取締役社長である渡邉淳氏の話を紹介する。Mipoxは1925年創業の老舗メーカーである。2011年からSFDCの導入を進め、「Manufacturing Cloud」もパイロットユーザーとしての活用を進めている。
MONOist IT活用を積極的に進めている理由を教えてください。
渡邉氏 一般的にいえば人手不足ということになるだろう。ただ、人手不足に対する解決策といえば、ロボットの導入など、自動化領域を拡大するという話に向かいがちだが、その前にやるべきことがあると考えた。
それは社内のオペレーションの無駄を減らすということだ。その多くが「コミュニケーションロス」によって生まれている。これを何とかしたいというのがそもそもの発端だった。
製造業はIT企業などに比べて、プロセスが長く、部門が多い。必然的に発生する情報が多くなり、コミュニケーション量も多くなり、これらのロスが積み重なることで、多くのマイナスが発生する。逆にこれらが効率化できれば、多くの余力を生み出すことができる。そういう意味で社内のオペレーション改善が「宝の山」になると考えていた。
コミュニケーションの問題を解決するのに「デジタル」は非常に効率が良い。記録が残る上、時間や場所も気にしなくてもよい。そこで2011年にSFDCの社内SNSである「Chatter」を導入。その後、SFDCの各ソリューションの導入に拡大していった。
MONOist 製造業の中にはデジタル技術の活用への抵抗や、クラウドの活用に不安を抱えている企業も数多く存在しますが、どういう考えで乗り越えたのでしょうか。
渡邉氏 新たな人材を確保することを考えれば、デジタル技術の積極的な活用は必須だと考えている。デジタルネイティブが会社に入ってくる頃にも、紙のマニュアルを使い続けるのかということを考えれば、事業継続性の面からもデジタル化、データ化が必要なのは明らかである。多くの企業が、デジタル技術を活用せずに一気にデジタル変革を目指すので難しくなる。一歩一歩必要なことから取り組んでいけば、それほど恐れることではない。
クラウドについても、多くの製造業が不安を抱える状況は理解できるが、自社でデータを扱うのと、データのプロに預かってもらうのとではどちらが安全なのかを考えれば選択肢は限られてくる。よほど強力な情報システム部門などを抱えていない限りは、クラウドの方が安全なのではないかとわれわれは考えている。
さらにいえば、製造業として預けるデータが他社に見られたとしても、見ただけで盗まれるようなものは大した競争力を生み出せない。見られたとしてもまねできないようなものが本当の意味での企業の競争力だと考えている。われわれは工場なども見学を受け入れているが、競合企業に見られたとしてもすぐに同じものを作れるとは考えていない。人に根付くノウハウであったり、企業文化や姿勢、コミュニケーションの中にこそ、まねできない企業価値がある。そういう意味では、クラウドで社外にデータを出すということに不安はなく、利便性を重視して判断した。
顧客を中心にあらゆる情報がまとまる場へ
MONOist パイロットユーザーとして参加した「Manufacturing Cloud」についてどう見ていますか。
渡邉氏 製造業としてSFDCを使ってきたが、商談ベースでの管理にずっと不満があった。われわれのビジネスの中では研磨機などは商談ベースでも管理できるが、在庫切れを起こさずに供給し続ける必要がある研磨剤などについては商談ベースでの管理には不向きで、実際にはSFDCを使っていなかった。ExcelのファイルをChatterで取引先に投稿するというような運用を取っていた。ただ、この方法についてもコミュニケーションロスが大きいと感じていた。
「Manufacturing Cloud」が出てきたことでわれわれのランレートビジネスにも活用できると考えた。良かった点は、顧客の製品ごとに、部門の壁を越えて、話す場ができたという点だ。目的の明確なコミュニケーションが実現でき、コミュニケーションロスを低減することができた。今後はERPをクラウド対応とし、SFDC上に乗せることで、製造のプロセスデータや在庫情報なども連携させることができるようにする。
SFDCのソリューションについては、顧客ベースに加えて、製品ベースでの管理なども切り替えられるようになればよいと考えている。現在「Manufacturing Cloud」が管理できているのは、モノのデマンドと予想、在庫のバランスなど、非常にシンプルなものだ。一方で製造業では製品にひもづく重要な指標がどうしても生まれてくる。これらを一元的に把握できるようにするためには製品ベースでの管理も必要になる。こうした機能を切り替えられるようになれば良いと考えている。
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