若手から「販売の数字なんていつも全然合ってないですよ」といわれる統括本部長:S&OPプロセス導入 現場の本音とヒント(2)(1/2 ページ)
営業事業統括本部長のO氏は、四半期ごとのムダな会議に苦悩中。若手からもこんな数字なんて、といわれる始末。どうしてこうなった?
この連載について
本連載はS&OP-Japan研究会(主幹:松原恭司郎)のメンバーによる生々しい実体験を基にしたフィクションです。S&OP-Japan研究会は、日本におけるS&OP普及を目的とした非営利のグループです。企業内で日夜数字やお金、予算と計画の間の隔たりを解消すべく、S&OPプロセスの学習と実践を行っています。
この物語は……
限りなく一般に起こり得る状況をイメージしながらS&OP-Japan研究会メンバーが創作した100%フィクションの物語です。特定の個人・企業・団体に関係するものではありません。
前回のあらすじ
工場勤務のSさんは生産計画グループに所属しており、毎月の「製販調整会議」を主催している。この「製販調整会議」は営業担当者と生産計画担当者が互いの主張を繰り広げ、とりとめもなく丸1日かけて行われる消耗戦。そこまで苦労しても、売れる製品は欠品し、売れない製品の在庫は山となる現実が起きている。そんな状況にSさんは頭を抱える日々なのであった……(前回記事参照)。
今回は営業事業統括本部長Oさん(仮名)の抱える課題を見ていこう。
何をどのように見直せばいいかの基礎情報がナイ
本社勤務の私は最近いら立ちを隠せなくなってきた。世界的な景気後退の影響で、今年度の販売実績が年初に立てた事業計画に届かない月が続いているのだから無理もないと、言い訳のように自分に言い聞かせる日々がしばらく続いている。販売だけでなく利益も同様。このままでは今年度の事業計画を見直さざるを得ない状況であるが、困ったことに、何をどのように見直せばいいかを判断するために必要な情報をうまく収集できない。
四半期レビュー会議:「頑張ります!」精神で乗り切れるの?
今朝は四半期ごとに開催される実績レビューと今後の見込みを話し合う会議が行われた。会議とはいうものの、それぞれの営業部長たちは販売・利益実績の未達に対する言い訳の列挙に終始しているだけで、十分な実績分析がされているとは思えない。
今後の見込みについても、最終的には「頑張ります!」といった精神論で、事業計画を合理的に見直すために十分な論拠がないまま終わってしまった。仕方がないのでさらに問い詰めてみると、毎月の製販調整会議で議論されている数字とも連携していない様子だ。
そういえば前回(3カ月前)開催された四半期レビュー会議でも同様だったではないか! そのときは、実績の分析のやり直しを命じるとともに、最新の製造・販売・在庫計画に基づいた今後の見込みを提出するように言った覚えがあるが、報告が来たのは結局1カ月もたってからだった。
「これじゃあ、前回のレビューのときと同じじゃないか! どうしてもっと実績分析をしっかりできない? だいたい、製販調整会議などで使っている最新計画をきちんと反映することはできないのか。俺にまた同じことを言わせるつもりかっ!」
一人の営業部長が恐る恐る口を開いた。「前期の実績集計をするのにかなり時間がかかるんですよ? それに製販調整会議は向こう3カ月分の計画しか扱わないじゃないですか」
別の若手の営業部長が続けて言う。
「毎月の製販調整会議で使っている販売計画の数字と事業計画の数字なんていつも全然合ってないですよ」
「何だって?」
彼は悪びれもせず、数字は合っていなくて当たり前だという。さすがにそれには私も驚いた。
「製販調整会議での数字は数量ベースなので、事業計画に使用する金額ベースの計画に変換するのが難しいんですよ。どれくらい違うか、ですか? こんなに製品件数が多いんだから、そんなこと毎月とても計算してられませんよ」
私の要求が荒唐無稽だとでも言いたげな顔をしている。
「こんなことでは、事業計画通りに実績が上がらないわけだし、見直した事業計画だってアテにならないわけだな」私は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
製販調整会議の最前線で
なぜ、こうなってしまったか。
これでは会議体の本来の意味が全く損なわれているではないか。私自身も製販調整会議に何回か出席したことがあったので、そのときのことを思い出してみた。
そこでは製品ユニットレベルの議論に終始し、それは数量ベース。金額で語られる事業計画との比較といった話は出てこない。むしろ、生産計画と営業の互いのエゴが対決するばかりで、生産計画側は営業側に、過剰になった在庫を見せて需要予測の精度の悪さを批判し、営業側は生産計画側や技術側に、販売機会を逸した製品の欠品理由を厳しく問い詰める。さらに、そこに生産能力の制約や新製品リリースの遅れといった要素が加わる。それを経験豊かなベテランのNさんが調整して取りまとめる。そんな消耗戦のような会議が毎月、丸1日かけて行われている。
そこには、事業計画や戦略を意識した会社全体を俯瞰(ふかん)する見方は欠けている。また、製販調整会議で使用された数字を、今後の事業計画の見直しに使用できるような金額ベースの情報に換算することは、これだけ多数の製品件数を扱っているだけに、そうは簡単にはいかず、まとめるのに1カ月近くかかってしまうことも想像できる。
自問自答する。「製販調整会議の情報は現実に最も近い情報だ。だというのに、事業計画との連携が十分になされていないと言っていい。製販調整会議と事業計画をお互いにもっと迅速に連携させて、お互いに結果を有効に反映させることはできないものだろうか」
「しかし、製販調整会議は直近3カ月先までしか取り扱っていないので、事業計画の見直しを論じるためには期間としては不十分だ。製販調整会議と事業計画の連携をうまくしたとしてもそれだけでは物事は解決しないではないか」
グローバル化と変化への対応
国内の営業本部はまだこれでもマシな方である。彼は海外の営業本部も担当しているが、海外営業本部からの実績報告はさらに時間がかかっている上に、時差と地理的要因によって、状況の捕捉は十分とは言えない状態だ。実績ですらそのような状態では今後の予測なんて正確なものを期待することはできない。
会社の戦略によれば、これからは海外の拠点を幾つか追加して、販売割合に占める海外比率を増やしていくことになっている。これは国内での市場拡大が見込まれない現在では、多くの国内企業が考えていることである。また、工場で使用している部材の仕入れ先の海外依存率は年々増加している。また、国内の仕入れ先であっても、その仕入れ先で使用している部材を海外から調達しているケースは決して少なくないことは想像できる。
「幸いにも当社はこの前発生した大震災や洪水などの影響がほとんどなかったから良かったものの、こんな状態では、予期せぬ突然の変化に対応できる状態とは言えたものではない」
考えれば考えるほど彼のイライラは治まるどころかますます激しくなるばかりであった。
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