ファブラボとの掛け算で広がる可能性、他者と協業しながら作り上げるという精神:日本におけるファブラボのこれまでとこれから(5)(3/3 ページ)
日本で3番目となる「ファブラボ渋谷」の立ち上げを経験し、現在「ファブラボ神田錦町」の運営を行っている立場から、日本におけるファブラボの在り方、未来の理想形(これからのモノづくり)について、「これまでの歩み」「現在」を踏まえつつ、その方向性を考察する。最終回となる今回は、ファブラボとの掛け算で広がる可能性、そしてファブラボが描く未来像について取り上げる。
未来を考えるファブラボ世界会議
世界には1600を超えるファブラボが存在します。それぞれの国や地域のファブマスターが集う会議が、毎年夏に開催されています。2019年は、エジプトのエルグーナ(El Gouna)でファブラボ世界会議「FBA15」が開催されました。
会期は約1週間。グローバルミーティングやさまざまなトピックスに関するトークセッション、ワークショップなどで構成されています。15回目の開催となる今回は、世界的に「インダストリー4.0」や「起業家育成」といった話題に関心が集まる中、「共に自立していく」というテーマが掲げられました。
「モノづくりがネットワークで実現される時代の中で、共にエコシステムを育てよう」と深読みのできるこのテーマ。誰もがアイデアを具現化することが容易になった社会におけるファブラボの役割を皆で議論するとともに、その社会に必要となる機能の実験と共有に取り組む会議となりました。
社会におけるファブラボの役割を皆で議論するとともに、そこに必要となる機能の実験と共有に取り組む会議となりました。参加者は、この世界会議で見聞きした知見や共通課題を自国に持ち帰り、各ラボの活動に還元していきます。
ファブラボが描く未来
個人のモノづくりが語られるとき、「Do It Yourself(DIY)」と呼ばれることが多くありますが、ファブラボには「Do It With Others(DIWO)」の精神があります。他者と協業しながらものごとを作り上げていく、という考え方です。
ファブラボには、さまざまな知恵と技術、思いが集まります。ここでの新たな出会い、新たなひらめきを社会に組み込みながら、自由なモノづくりが可能になった今をよりいっそう良い方向に導いていけたらと思います。そして、FABLAB=FABRICATION LABLATORYの名前の通り、デジタルファブリケーションの研究所として、モノづくりテクノロジーのショールームとして、いつまでもありつづけたいと考えています。
最後に動画を1つご紹介します。地域にファブラボがあることが当たり前になった未来には、きっとこのようなモノづくりの世界が待っていることでしょう。
長期間お付き合いいただき、ありがとうございました。本連載を読んでくださった方々が、どこかのファブラボを訪れてくださることを願っています。(連載完)
筆者プロフィール
梅澤陽明(うめざわ ひろあき)
1984年神奈川生まれ。一般社団法人デジタルファブリケーション協会 代表理事。ファブラボ神田錦町 チーフディレクター。大手建設機械メーカー設計部にて、超大型ショベルの設計開発に従事。在職中に「ファブラボ」活動を知り、起業を決意。ファブラボジャパンのメンバーとして、ファブラボ鎌倉の立ち上げサポートの後、ファブラボ渋谷をスタートさせる。運営メンバーとして現職。自身の専門から、数あるデジタルツールの中でも、3Dモデリングを活用したエンジニアリングや、3Dプリンティングを専門とする。デジタルものづくり手法を組み込んだ試作開発や、多品種小ロットプロダクトの企画製作に取り組みながら、ファブラボで語られる思想を社会に溶け込ませることを目指している。
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