ファブラボ鎌倉が教える21世紀の「読み・書き・そろばん」:モノづくり×ベンチャー インタビュー(3)(1/4 ページ)
「ほぼ、なんでも作る」を目的に、世界各国でさまざまな活動をおこなっているファブラボ。日本に最初に設立されたファブラボであるファブラボ鎌倉は、モノづくりの未来を見据えた人材育成に取り組んでいる。その背景について、ファブラボ鎌倉のプロダクトマネージャーを務める渡辺ゆうか氏を取材した。
3Dプリンタやレーザーカッターなど、デジタル工作機械の普及によって、個人でも取り組める新しいモノづくりの可能性が広がっている。それに伴い、ここ数年で日本国内においても、デジタル工作機材を備えたカフェやメイカーズスペースと呼ばれる施設が続々と登場している。その先駆けといえるのがFabLab(ファブラボ)だ。
世界各国に拠点を持つファブラボは、デジタルからアナログまで、さまざまな工作機械を備えた市民工房であると同時に、ネットワークでもある。「ほぼ、なんでも作る」を目的に、各地域のファブラボでさまざまな活動をおこなっている。その活動範囲は、単に個人でモノづくりを行うというだけでなく、人材育成や実験施設としての運営など幅広い。
2011年に、日本で最初に開設されたファブラボであるFabLabKamakura(ファブラボ鎌倉)のプロダクトマネージャーを務める渡辺ゆうか氏に、設立の経緯や、現在の取り組みについて聞いた。
全世界に400カ所以上あるファブラボ
MONOist ファブラボ鎌倉を設立した経緯について教えてください。
渡辺氏 ファブラボの原点となったのは、MIT Media Lab教授のNeil Gershenfeld氏の授業「(ほぼ)あらゆる物をつくる方法」です。これをきっかけに2002年、インドのプーネとボストンのスラム街に最初のファブラボが誕生しました。日本でも、ファブラボ設立に向けて2010年にファブラボジャパンという有志の団体が設立されました。私はそのころから関わっています。現在ファブラボは、全世界50カ国に渡って、400カ所以上あるといわれています。
20世紀は大量生産、大量消費の時代で、モノづくりというのは分業で行うものでした。しかし、デジタル工作機械の登場によって、企画から製造、そしてモノの使い手までが一緒になり始めて、新しい広がりを見せています。
こうした製造業の文脈で面白いことが起きているのと同時に、IoT(モノのインターネット)という観点から見ても、デジタルファブリケーション技術の登場によって情報が物質化するという面白い時代になってきました。これまでの情報化社会では、個人がPCやスマートフォンといったデバイスを持って、さまざまな情報を発信してきました。それが物質化されるというインパクトはとても大きいと思うし、次世代の社会を築くプラットフォームになると感じています。
私はもともと、都市計画や環境デザインに従事していたということもあって、こうした社会的観点からファブラボの存在がとても面白いと思ったんです。だから、「あれもこれも作れる!」ということより、これからの時代はモノづくりのスタイルが変わったり、クリエイターの新しい働き方が可能になるかもしれないと感じて、ファブラボ鎌倉の立ち上げに関わらせていただきました。
次世代のモノづくりを学ぶ場所
MONOist ファブラボ鎌倉が現在行っている取り組みを具体的に教えてください。
渡辺氏 ファブラボ鎌倉の役割は曜日によって変化します。月曜日はコミュニテイラボとして、「朝ファブ」という取り組みを行っています。これは、施設のメンテナンスに協力した方に限り、その日の午前中にファブラボ鎌倉の機材を利用できるというものです。火曜日から金曜日は、研究開発のためのラボとして運営を行い、週末にはトレーニングプログラムなどを実施しています。
ファブラボ鎌倉は、「Learn/Make/Share」をテーマに次世代のモノづくりを学ぶ場所です。なので、機材や設備の時間貸しサービス、3Dプリント用のデータ作成サービスなどは行っていません。現在は、講習会や朝ファブに参加して会員になっていただいた方が利用できるというシステムになっています。朝ファブは無料ですが、その他の講習などは有料のものもあります。ボランティアというわけではないので社会的な意義と運営体制のバランスを見ながら活動しています。
MONOist 朝ファブや講習会にはどんな方が参加されているのでしょうか。
渡辺氏 お母さんに連れられてくる小さなお子さんから、既に仕事からリタイヤされている方まで、年齢層は幅広いです。特に主婦の方や、クリエイターの方がよく訪れます。ファブラボ鎌倉は、「ほぼ、なんでも作る」のコンセプトに従ってさまざまな機材をそろえていますが、2、3カ月ほどで3Dプリンタやレーザーカッターに慣れてくると、プログラミングや電子工作にチャレンジし始める方が多いですね。こうした活動は、全てノートかWeb上にまとめてもらっています。
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