モデルラットを誰でも簡単・効率的に作り出す技術を開発:医療技術ニュース
京都大学は、「誰でも」「簡単に」「効率よく」モデルラットを作り出せる技術を開発した。平均2.2個程度しか採卵できなかったBNラットからの過排卵に成功し、この卵子を用いて、誰でも再現可能な体外受精に成功した。
京都大学は2019年8月22日、「誰でも」「簡単に」「効率よく」モデルラットを作り出せる技術を開発したと発表した。同大学医学研究科 教授の浅野雅秀氏らの研究グループによる成果となる。
研究ではまず、ラットを過排卵させる手法を開発。性周期の同期化や排卵抑制ホルモンの制御を組み合わせ、これまで平均2.2個程度しか採卵できなかったBNラットから、平均42個(約19倍)もの卵子が得られるようになった。この方法を活用すれば、他の系統でも排卵数が増加することが分かった。
次に、それらの卵子を使った体外受精法を開発した。麻酔下で寝ているラットから卵子を採取して体外受精に用いることで、誰でも再現可能な体外受精に成功した。さらに、その体外受精卵子を使ってゲノム編集ができるかを検討。簡便かつ低予算で実現するよう、エレクトロポレーションによる遺伝子破壊とウイルス感染による遺伝子置換を試した。その結果、体外受精卵子を使って遺伝子破壊をすると、自然交配卵子を用いた従来のどの方法よりも、高効率に遺伝子が破壊されることが判明した。ウイルスベクターを用いた遺伝子置換実験でも、33.3〜47.4%の高効率で達成できた。
同研究で用いられた遺伝子改変法は、高額な器機を必要とせず、わずかなトレーニングで習得できる技術を活用している。モデルラット作出の難易度が大幅に下がることから、有用なモデルラットの作製やそれらを用いた研究の活発化、再生医療や絶滅危惧種の保存などの研究にも発展することが期待される。今後は、同技術の研修などを積極的に行い、普及に努めるという。
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