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体幹深部の腫瘍に極細針を穿刺する医療ロボット、早大系ベンチャーが開発医療機器ニュース

ROCK&LOTUSは2019年9月3日、再発・進行がんの根治が期待できる「HITV(Human Initiated Therapeutic Vaccine)」療法を高精度に提供するがん治療ロボット「IRIS(Intratumoral Robotic Injection System)」を世界で初めて開発したと発表した。

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 日本人の死因で最も多い病気である、がん。がんは早期発見すればするほど根治が期待できるが、発見が遅れた「進行がん」や再発がんは5年生存率が10%ほどと低く、根治も困難な傾向にある。早稲田大学関連の医療ロボットベンチャーであるROCK&LOTUSは、強く待ち望まれている再発・進行がんを根治する治療技術の開発に挑戦している企業の1社だ。

 ROCK&LOTUSは2019年9月3日、再発・進行がんの寛解が期待できるとされる「HITV(Human Initiated Therapeutic Vaccine)」療法を高精度に提供する、がん治療ロボット「IRIS(Intratumoral Robotic Injection System)」を世界で初めて開発したと発表した。IRISはHITV療法で重要な課題である、極細針による高精度な腫瘍穿刺を実現したとする。


第37回 日本ロボット学会 学術講演会 プレスリリースで公開された、がん治療ロボット「IRIS」の試作機(クリックで拡大)

 HITV療法は、抗原を取り込む能力が強い未熟樹状細胞(iDC)を腫瘍に直接投与する免疫療法(国内では保険不適用の自由診療)だ。樹状細胞は体内のさまざまな場所に分布する免疫細胞で、体外からの感染物質や体内の異物を認識し、排除のために他の免疫細胞を誘導する役割を持つ。また、樹状細胞はがん細胞のように変位を繰り返し、抗原が変化する場合でもそれに追随できることが特徴だ。

 HITV療法では腫瘍にiDCを直接投与することで、腫瘍特異的なCTL(キラーT細胞)を腫瘍と血液中に誘導させるという。このCTLが腫瘍と血液中に流れるがん細胞を傷害し、腫瘍の縮小、消失と転移の予防を目指す。手術や放射線治療、化学療法と併用することで、他臓器転移や血液浸潤まで進んだステージ4のがんや再発がんにおいても高い効果が期待できるという。

左:HITV療法の適応ケースと非適応ケースの違い 右:HITV療法のスキーム。CTL導入期と寛解維持期に分けられ、放射線治療と化学療法を併用することで腫瘍特異的なCTLを誘導するという(クリックで拡大) 出典:ROCK&LOTUS

 一方で、HITV療法の実施には高いハードルが存在する。まず、iDCを腫瘍に直接投与する手技が医師に熟練を要求する。HITV療法の適応症である下腹部リンパ節腫瘍では、腫瘍が下腹部深部にあるため穿刺深さは15cm程度にまで達するという。一方で、穿刺による臓器損傷や合併症発症のリスクがあるため、治療には25ゲージ(外径0.5mm)の極細針を用いることも多い。極細針はたわみやすく、腫瘍へ正確にiDCを投与することは非常に技術力が求められる手技だという。

 また、術中はCT撮像を行っており(CTガイド下穿刺)、刺し直しを複数回行うなど穿刺が長引いた場合、患者や手技を行う医師の被ばく量が増加することも課題だった。


簡単にたわむ25ゲージ(外径0.5mm)の極細針(クリックで拡大)
左:HITV療法の技術的課題 右:下腹部リンパ節腫瘍への適用を目指すIRIS(クリックで拡大) 出典:ROCK&LOTUS

 IRISは、汎用のロボットアームに独自開発の穿刺ユニット「NIU(Needle Insertion Unit)」と薬剤注入器「MDI(Multi Drug Injector)」を装着し、腫瘍に対して正確な穿刺を行う医療用ロボットだ。医師の技量に影響を受けず、極細針による低侵襲かつ刺し直しがほとんどない治療を実現したという。また、医師はCTから別室でロボットを遠隔操作できるため、患者と医師双方で被ばく量を抑えることができることもメリットだ。


IRISのNIU。中央の極細針をたわませずに穿刺する

 HITV療法の課題であった針のたわみは、針に双方向回転と振動を加えることで解決した。双方向回転と振動を針に加えなかった場合と比較し、穿刺の誤差を数分の1程度まで大きく低減できたとする。また、双方向回転と振動による組織損傷は通常穿刺と同程度であり、針が血管を損傷した場合においても出血量が少なく合併症のリスクも低いと見られるという。

左:双方向回転と振動の有無によるin vivo(生体内)実験の比較 右:双方向回転と振動で正確な穿刺を実現した(クリックで拡大) 出典:ROCK&LOTUS

 現在、ROCK&LOTUSは試作機を開発しており、特許申請や非臨床試験を進めている。今後、2020年の夏季を目途として臨床モデルを開発し、2021年半ばまでに非臨床試験を進める予定。医学研究における倫理審査の審査通過後、2022年から人を対象とした臨床試験を行う方針で、薬事申請は2023年半ば以降を見込んでいる。

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