AIが設計し、人は妥当性を検証する――オムロンが見据える将来の開発現場:CAEニュース
サイバネットシステムは、プライベートイベント「CAEユニバーシティ 特別公開フォーラム 2019 〜AI時代におけるCAEとの付き合い方〜」を開催。基調講演ではオムロン グローバルものづくり革新本部の岡田浩氏が「オムロンのCAE活用法と、AIと融合した今後のCAEについて」をテーマにCAEの未来像を語った。
サイバネットシステムは2019年7月25日、プライベートイベント「CAEユニバーシティ 特別公開フォーラム 2019 〜AI時代におけるCAEとの付き合い方〜」を開催。基調講演ではオムロン グローバルものづくり革新本部 開発プロセス革新センタ フロントローディング部の岡田浩氏が「オムロンのCAE活用法と、AIと融合した今後のCAEについて」をテーマにCAEの未来像を語った。
岡田氏が所属するフロントローディング部は、CAE活用を進める技術を構築し、オムロンの事業部側に対してCAE活用の定着を促す役割を持つ。同部は各事業部で共通して用いる熱、ノイズ、構造、樹脂成型、工法といった領域で開発フロントローディングを推進しており、CAEツールや実験環境の構築、CAE技術の確立、現場密着型CAE人材や全社コア型CAE人材の育成を行っている。
CAE人材の育成では、CAEを用いるうえで必要な工学の基礎理論と実際の業務におけるCAEツール活用法を同部が教育する。ツール活用の教育は同部のCAEエキスパート人材を講師として、実践を重視したワークショップを4カ月間にわたり開講する。事業部側の設計者複数人でチームを組み、前もって用意された演習用テーマ、もしくは実設計テーマについてモデル検討、解析結果の考察、報告書の作成を行う。これら各段階では成果発表と質疑応答を組み入れることで、チーム間の学びを共有させる。このワークショップについて、岡田氏は「解析を教えつつ技術者教育も行っている」と胸を張る。
同社のCAE活用事例も複数にわたって紹介された。近接センサーにおける連成解析の事例では、センサーの樹脂封入といった加工プロセスの最適条件を検討するとともに、加工プロセスが製品信頼性へどのように影響を及ぼすかを評価していると説明。また、同社が多くのシェアを持つ血圧計の開発においてもCAEは活躍しているとし、腕帯のスリム化を実現する材料や加工要件をCAEによって抽出し、開発初期の課題を低減しているという。
岡田氏は、AI(人工知能)とCAEを融合させたモノづくりについて「顧客仕様や従来製品の形状、最先端材料の特性、工法、加工条件といった情報を、人がAIにインプットする。そうすると、従来の『人がパラメータを思いつき、その中でCAEやTRIZ(発明的問題解決理論)、その他最適化手法を用いる設計手法』ではなく、AIにより統計学手法を用いて、独自かつ自動的に人が思いつかないような新たなモノづくりを行うことができるかもしれない」と未来像を描く。特に、強化学習へ大きな期待を抱いているという。
その一方で、「従来のAIでは確率統計的に解を提示するが、なぜその解に至ったのか理由を解明するのは難しい」(岡田氏)ため、「AIを用いたモノづくりでは、AIが設計した製品の品質を人が責任をもって、工学的かつ論理的に説明する。そのためにCAEが必要となるかもしれない」との認識を示した。現在、オムロンではAIやIoT(モノのインターネット)を設計現場に適応することを目指し、取り組みを進めているところだという。その一例として、多数の実装部品を配置する電子基板の部品配置やリフロー条件などをAIとCAEを組み合わせて導出することを目指していると説明した。
関連記事
- AIとCAE、ビッグデータの融合で匠の技は残せるのか――オムロンのチャレンジ
オムロンは1980年代からCAEの活用環境を整備してきた。さらに今、取り組もうとしているのが、ビッグデータおよびAI(人工知能)とCAEの融合だ。将来は実測とCAEを一致させることによる最適な設定などが自動で可能になるとする。さらに、この取り組みによって職人の技術を可視化して、後世に残していくことができるのではないかと考えているという。同社でCAE業務を推進するオムロン グローバルものづくり革新本部 生産技術革新センタ 要素技術部の岡田浩氏に話を聞いた。 - 「ないと困るなら、復活させればいい」――本当に役に立つCAEの導入方法とは
CAEの導入効果は意識して示さなければ外部から見えにくい面もある。またともすればツールの導入ばかりに力が入ってしまい、効果の検証が後回しになってしまうこともある。その問題を解決しようと、いったんCAEの専門組織を凍結してしまうという荒療治を行ったのがオムロンだ。 - オムロンが描く“現場”の力を最大化する自動化
オムロンは2018年8月28日、同社のモノづくり革新コンセプト「i-Automation(アイオートメーション)」への取り組みを紹介するととともに、そのモデル工場である京都府の綾部工場での自社実践の様子を紹介した。本稿では前編で「i-Automation」を中心としたオムロンのFA戦略の概要をまとめ、後編で自社実践を行う綾部工場での現場の取り組みをお伝えする。 - 世界で最もリアルなモノづくり革新へ、オムロンが考えるAIやIoTの使い方
IoTやAI、ロボティクスなどを活用したモノづくり革新が加速している。その中で“世界で最もリアルなモノづくり革新”を目指すのがオムロンだ。「名古屋スマート工場EXPO」で「どう始めるか?実現可能なスマート工場とは」をテーマに行ったオムロン 執行役員副社長 インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー社長の宮永裕氏の講演内容の紹介とMONOist編集長の三島一孝との対談の様子をお伝えする。 - 金型加工の「匠の技」を自動化、オムロンがサービスとして提供
オムロンは、モノづくりの生産性や品質を向上させるIoTサービス「i-BELT」の第3弾として「金型加工の切削最適制御サービス」の提供を2019年2月に開始すると発表した。 - オムロン卓球ロボが進化、手首と肘を得て、あなたの腕前を評価する
オムロンは、消費者向けエレクトロニクス展示会「CES 2019」(2019年1月8〜11日、米国ネバダ州ラスベガス)において、5世代目となる卓球ロボット「フォルフェウス」を世界初公開した。カメラやサーボシステムの変更により従来と比べて返球できる球種が増えた他、卓球の上級者の動きを基にしたコーチング機能が新たに搭載された。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.