世界的なナイロン不足は2023年まで継続、代替材料の提案強化:材料技術
オランダの化学大手DSMの日本法人ディーエスエムジャパンエンジニアリングプラスチックスは2019年5月29日、東京都内で説明会を開き、ポリアミド66(PA66、ナイロン)の需給見通しについて紹介した。
オランダの化学大手DSMの日本法人ディーエスエムジャパンエンジニアリングプラスチックスは2019年5月29日、東京都内で説明会を開き、ポリアミド66(PA66、ナイロン)の需給見通しについて紹介した。
→ナイロン供給に関する2021年の情報はこちら:ナイロン不足は長期化の見通し、ヘキサメチレンジアミンを使う他の素材への影響も
PA66の原料であるヘキサメチレンジアミン(HMDA)は、グローバルで不足している。2018年は特に供給が逼迫(ひっぱく)し、PA66を手掛ける材料メーカーが一斉に値上げした。PA66は、テキスタイル(布地)以外にも自動車や電子部品といった用途で使われている。PA66の需要はエンジニアプラスチックがけん引して拡大しており、PA66の不足量は30万tに上る。PA66が不足する状況は2021〜2023年ごろまで続く見通しだ。また、ヘキサメチレンジアミンを使う他のポリアミドも影響を受けており、ポリアミド6T(PA6T)の場合は1kg当たり0.5ユーロ(約60円)の価格上昇する試算となっている。
ヘキサメチレンジアミンの供給不足は、その原料であるアジポニトリルに起因している。アジポニトリルを生産するのはグローバルで見てもAscend、Invista、Solvay、旭化成の4社のみ。米国のハリケーンや欧州での河川増水の影響を受けて、サプライチェーンが乱れていた。
アジポニトリルを生産するメーカーは、2020〜2021年にアジポニトリルの新工場を立ち上げる計画だが、生産能力増強からPA66などポリアミド系の供給不足解消に至るまでは時間がかかる。供給が安定するのは2023年ごろとなる見通しだ。
こうした状況を踏まえ、DSMは2018年からヘキサメチレンジアミンを使わない代替素材の提案を進めている。ポリアミド46(PA46)とポリアミド6(PA6)を混合した「アクロンIGグレード」をPA66の代替として発表。ヘキサメチレンジアミンではなく、供給が安定している1,4-ジアミノブタンを使用する。さまざまなテストの結果、アクロンIGグレードはPA66と遜色ない機械特性、耐衝撃性、成型時の収縮率や耐油性を持つことが確認されており、PA66から置き換えられるとしている。
また、PA66の代替となる別の素材としてポリアミド410(PA410)の「EcoPaXX」も提案している。ヒマシ油で重合させることができ、材料の7割を植物由来にすることが可能だ。生産時のCO2排出量削減につながる。ガラス転移温度や融点といった性能がPA66と近い。また、乾燥時や吸水後の引っ張り弾性率、吸水率の低さ、耐加水分解性といった項目でPA66と同等の水準を満たすことを確認したという。
PA66とPA6は同じ用途であっても、地域差やこれまでの採用実績によってPA66が使われたり、PA6が使われたりする。「どちらを使うか定まっていない“グレーゾーン”もある。PA6、PA6とPA46をブレンドしたアクロンIG、EcoPaXXなど、PA66からの置き換えを検討する余地はあるのではないか」(ディーエスエムジャパンエンジニアリングプラスチックス 日本地域コマーシャル本部 取締役事業本部長の姜信良氏)。代替材料を提案するに当たって、従来と同等の生産性を維持できるよう、技術サポートも提供するとしている。
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