シミュレーション全盛時代に衝突試験用ダミー人形はどう変わっていくのか:人とくるまのテクノロジー展2019
ヒューマネティクス・イノベーティブ・ソリューションズ・ジャパンは「人とくるまのテクノロジー展2019 横浜」(2019年5月22〜24日、パシフィコ横浜)において、最大150チャンネルの計測が可能な自動車衝突試験用ダミー人形「THOR-50Mダミー」をアピールした。
ヒューマネティクス・イノベーティブ・ソリューションズ・ジャパンは「人とくるまのテクノロジー展2019 横浜」(2019年5月22〜24日、パシフィコ横浜)において、最大150チャンネルの計測が可能な自動車衝突試験用ダミー人形「THOR(Test device for Human Occupant Restraint)-50Mダミー」をアピールした。
シミュレーションの活用が広がる中でのダミー人形の役割
「THOR-50Mダミー」は成人男性を想定した前突衝突試験用のダミー人形である。従来型のハイブリッド3型に比べて人体忠実度の向上と、より多くの計測チャンネル、検定試験項目が設定できるという点が特徴である。従来モデルが50〜60チャンネルだったが、「THOR-50Mダミー」は最大150チャンネルの計測が可能で、1度の衝突試験でより多くの情報を取得できる。
重量や大きさ、表面形状などは最新のUMTRI人体形状データを採用しており、マルチポイントでの3次元胸部、腹部変位計測が可能である。需要が高まっている、データロガー内蔵型にも構成を変更できる。
ヒューマネティクス・イノベーティブ・ソリューションズ・ジャパン テクニカルセンター長の岩村卓哉氏は「1度の衝突試験でより多くの情報を取得したいというニーズは高まっている。例えば、従来モデルでは胸部への影響は前後方向でしか捉えられなかったが、新モデルでは3次元の動きが捉えられることで、衝撃による胸のたわみなど影響度をより正確に把握できるようになる。前突試験でも横や斜め方向からの影響などを見たいとする声は多い」と述べている。
シミュレーション技術などが急速に進化しており、実際の試験回数を減らそうという動きが広がっているが、岩村氏は「ダミー人形の受注やメンテナンス依頼などは、新たな車種の開発時や法規制の変更時などが多く需要には波がある市場だが、全体的に試験回数は減少傾向にある。ただ一方で、衝突試験は必ず行わなければならないので需要はゼロにはならない。さらに、1度の衝突試験でより多くのデータを取得しようというニーズは高まっており、センサーの設置数を増やすなど、ダミー人形そのものの高度化は今後も進んでいく」と市場動向について語る。
さらに「今後、完全自動運転車などの登場を考えると、搭乗者の姿勢なども従来とは全く違う形へと変わってくる。こうした状況でも安全を確保するため、全方位で情報を取得するような方向で進むだろう」と岩村氏は今後の展望を述べている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- トヨタの仮想人体モデルに新バージョン、姿勢変化と骨や内臓の障害を同時解析
トヨタ自動車は2019年2月8日、衝突事故発生時の乗員や歩行者を再現するバーチャル人体モデル「THUMS」を改良し、バージョン6として発売したと発表した。最新バージョンでは、乗員の姿勢変化と、衝突時の骨や内臓の傷害を同時に解析することが可能になった。JSOLと日本イーエスアイを通じて販売する。 - 衝突実験からプレス加工まで、自動車業界で確実に進むCAEの活用
CAEの最新動向を有力ベンダーに聞く短期連載。自動車業界のCAEインフラを手掛けてきたSCSKと、自動車の構造計算ソフトのスタンダードである「LS-DYNA」をはじめとしたCAEソフトプロバイダーであるJSOLに、自動車業界におけるCAE利用の実際について聞いた。 - スバルはどのようにして衝突安全の最高評価を獲得したか
富士重工業の衝突安全や運動性能、快適性などの機能を実現するためにCAE技術が役に立っている。 - エアバッグが開かないのは衝突安全ボディのせい!?
衝突事故が発生した際には、必ず展開して乗員を守ってくれると信じられているエアバッグ。しかし実際にはエアバッグが展開しないことも多い。これは、衝突安全ボディが、エアバッグを展開する必要がないレベルまで衝撃を吸収してくれているからだ。 - レベル3の自動運転の普及は伸び悩む? 提案は無人運転シャトルや小口配送に
「レベル3のシェアは2030年から横ばい」という市場予測を反映してか、2019年のCESでは無人運転車に関する展示が多くみられた。ドライバーが運転に復帰する必要のあるレベル3の自動運転と、システムが全ての動的運転タスクを担うレベル4〜5。それぞれについて、2019年は法的な議論や技術の熟成が一層進みそうだ。 - 1社では難しい「レベル4」、オープンソースの自動運転ソフトが提供するものは
「人とくるまのテクノロジー展2018」(2018年5月23〜25日、パシフィコ横浜)の主催者企画の中から、ティアフォーの取締役で、名古屋大学 未来社会創造機構 特任教授でもある二宮芳樹氏の講演を紹介する。 - なぜ“自動運転”の議論はかみ合わない? レベル3とレベル4を分けるのは
「人とくるまのテクノロジー展2018」の主催者企画の中から、筑波大学 システム情報系 教授である伊藤誠氏の「自動運転」に関する講演を紹介する。