エアバッグが開かないのは衝突安全ボディのせい!?:いまさら聞けない 電装部品入門(14)(1/3 ページ)
衝突事故が発生した際には、必ず展開して乗員を守ってくれると信じられているエアバッグ。しかし実際にはエアバッグが展開しないことも多い。これは、衝突安全ボディが、エアバッグを展開する必要がないレベルまで衝撃を吸収してくれているからだ。
前回は、エアバッグの正式名称である「SRSエアバッグシステム」という言葉の意味や、車両内における設置位置、基本動作などについて説明しました。
エアバッグを展開する際の工夫は基本動作のところで説明した通りですが、実は別の視点で見ると意外と知られていない事実があります。
エアバッグは、「シートベルトでは保護し切れない前方からの衝撃がボディに加わった」場合に展開し、乗員を保護します。しかしエアバッグやシートベルトはあくまでも衝突後の保護装置でしかありません。実は車両のボディには、衝突が発生したまさにその時に、衝撃を緩和するための対策が施されているのです。
衝突時の衝撃緩和
衝突時に重要となるのは、乗員の居住空間(生存空間)である車室内に伝わる衝撃をいかに減らせるかです。
例えば、人間の胴体を車室と仮定して考えてみましょう。
人間が直立した状態から、両腕を体の正面にピンと伸ばし、そのまま前方へ倒れこむ情景をイメージしてください。
その時に、腕を関節で曲げて衝撃を吸収せずに、そのまま腕を伸ばした状態で地面に手を着くとどうなるでしょうか?
腕から肩にかけて強い衝撃が掛かるのは当然ですが、その衝撃が胴体や内臓にも伝わってむせ返るような感じになると思います。
しかし着地時に腕を曲げて衝撃を吸収するとどうでしょうか?
ある程度の筋肉があれば加速した人体の重みを腕で和らげることができるので、結果的に胴体への衝撃はほとんど感じないはずです。
実は、車両の正面衝突時に前後方向の力を主に受けるフロントサイドフレーム(インパクトセンサーが取り付けられているフレーム)は、先の例で着地時に腕を曲げて衝撃を吸収するのと同じように、衝突した力を吸収しながらつぶれていくように計算されて作られているのです。
衝撃吸収を何も計算していない単純なフレーム(着地時に腕を伸ばしたままの状態)ですと、衝撃は吸収されず車室内に衝撃がそのまま伝達されてしまいます。さらに言えば、衝突してきた相手側の車両にも相応のダメージを与えることになります。
そして、フロントバンパーや衝撃吸収能力を持ったサイドフレーム(クラッシュボックス)などによって必要十分に衝撃を吸収し、車室内への衝撃がかなり軽減されている場合は、エアバッグは展開しません。展開しない場合の例は後ほど詳しく説明しますが、室内にあるSRSコントロールユニットの加速度センサーで車室内に加わる衝撃力は検知可能であり、衝撃力が大きくない場合にはエアバッグを展開しないのです。
また、車両の中で最も広い面積を持つボンネットは、正面衝突時に折れ曲がる必要があります。もし、前方からの衝撃で折れ曲がらない構造だと、相手が人体であれば言うまでもなく凶器となって重大な障害を負わせてしまうことになります。また、ボンネットが折れ曲がらずに自車両の車室内に突入してくるような事態が発生してしまったら、乗員の命を脅かす凶器になります。
つまりボンネットは衝突時に折れ曲がることが非常に重要なのです。このため、裏には折れ曲がりやすいように溝が施されています。
車室内に突入して乗員への凶器になるのはボンネットだけではありません。エンジンルームの容積の大半を占めるエンジン本体もそうです。
衝突によってエンジンがバラバラに砕け散るような構造であれば問題ありませんが、金属の塊である以上、衝撃でバラバラになるように設計することは物理的に不可能です。そこで、正面衝突時にはエンジンが車体の下に転がるように落ちて、室内空間がつぶれないような工夫が施されています。
このように、車体そのものに衝撃安全対策を施しているものを衝突安全ボディと言います。
最近では新車購入時の比較材料として、衝突安全性の評価が注目されることも多くなりましたので、何となくご存じの方もいらっしゃると思います。
衝突安全性の評価は、搭載されているエアバッグの種類なども含めた総合判断となりますが、展開前の段階でいかに衝撃を緩和できるのかは非常に重要な要素です。
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