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エアバッグが開かないのは衝突安全ボディのせい!?いまさら聞けない 電装部品入門(14)(2/3 ページ)

衝突事故が発生した際には、必ず展開して乗員を守ってくれると信じられているエアバッグ。しかし実際にはエアバッグが展開しないことも多い。これは、衝突安全ボディが、エアバッグを展開する必要がないレベルまで衝撃を吸収してくれているからだ。

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エアバッグが展開する条件

 SRSエアバッグシステムで問題になりやすいのが、なぜ展開したのか/展開しなかったのかを判断しにくい点です。

 例えばエアバッグが展開したとして、それぞれのセンサーが正常に機能した結果として展開したのか、いわゆる誤展開だったのか、というのは素人目で見ても絶対に判断できません。

 そこでまず、自動車の取扱説明書などに記載されている展開条件を紹介しましょう。

時速20〜30kmの速度で、極めて強固な壁(自動車が衝突しても微動だにしない壁)に正面衝突した場合と同等もしくはそれ以上の衝撃を受けた場合

時速20〜30kmの速度で極めて強固な壁に正面衝突
時速20〜30kmの速度で極めて強固な壁に正面衝突

車両の前方左右約30度以内(車種によって異なります)の方向から強い衝突を受けた場合

前方左右約30度以内からの強い衝突
前方左右約30度以内からの強い衝突

 これだけを見ると、時速20〜30kmで衝突すればエアバッグが展開しないとおかしいようなイメージを持ってしまいます。しかし、ここには勘違いしやすいポイントが含まれています。実はこの展開条件が言いたいのは、

「時速20〜30kmの速度で、前方左右約30度以内の角度で極めて強い壁に正面衝突した場合と同等以上の衝撃力が車室内(乗員)に加わったと判断された場合」

ということなのです。

 分厚いコンクリートの壁に単独事故で正面衝突する状況は、絶対に発生しないとはいいませんが、そうそう起こり得るものではないでしょう。

 衝突事故で最も多いのは、「前方車両の後部に衝突」、「交差点などで右折してくる車両と衝突」、「カーブを曲がり切れずにガードレールに衝突」といった状況だと思います。これらの状況で衝突する対象物は、分厚いコンクリートの壁のような「微動だにしない障害物」ではありません。

 例えば衝突する対象が自動車の場合、衝突することで互いのボディがへこんで衝撃を緩和します。交差点での衝突事故は、斜めの方向に向いている車両に衝突することが多いので、衝撃力は横方向にも分散して、車室内に伝わる衝撃力も減少します。ガードレールも衝撃によって曲がったり倒れたりするので衝撃が緩和されます。

 さらに細かく言うと、相手車両が自車両よりも軽ければ、それだけ自車両が受ける衝撃力は少なくなります(逆に相手が自車よりも重ければ、強固な壁に衝突した場合と同じような状況に近づきます)。

 つまり、「時速20〜30kmの速度で、極めて強い壁に正面衝突した場合と同等以上の衝撃力が車室内(乗員)に加わったと判断された場合」という基本展開条件に照らし合わせると、時速50kmで衝突したとしても状況によってはエアバッグを展開しない可能性が十分にあるということになりますね。

 正面衝突という限られた条件だけで見ても、衝突する対象の状況によって判断が大きく異なってくることがお分かりいただけたと思います。しかし、実際にはもっと複雑な状況も存在しています。

 例えば、右折直進時の事故などで自車両の斜め方向から衝突された場合などでの展開の可否判断ですね。これらを全て網羅した説明は難しいのですが、エアバッグ(ここでは運転席用)の主な目的を理解していれば、大半の展開可否を判断することができます。

 事故を起こした時に、真っ先にドライバーに危害を加える可能性があるものはステアリングハンドルです。シートに座っている状態で上半身を前屈させると、普通の運転姿勢であればステアリングハンドルに顔面が当たると思います。

※まれに、シートを目いっぱい後ろに下げた状態や、シートバック(背もたれ)を目いっぱい倒した状態で運転されている方もいらっしゃいますが、それは例外ということで割愛させていただきます。なお、こういった運転のやり方は、シートベルトで上半身を拘束できないので大変危険です。

 衝突によってシートベルトが上半身を拘束しますので、慣性力によって生じる前屈量はかなり抑制されます。それでも抑え切れない衝撃力が加わったと判断された場合に、ステアリングハンドルと顔面が直接衝突しないように、エアバッグが展開して衝撃を緩和するのです。

 しかしよく考えてみると、エアバッグはステアリングハンドルのほぼ中心に取り付けられており、作動時は正面に勢いよく展開します。ドライバーが車体の斜め方向に衝撃を受ける場合には、エアバッグでしっかりと顔面を受け止めるのが難しくなり、衝撃も緩和しにくくなります。

 つまりエアバッグは、真正面(正面に対して左右約30度の範囲)からの衝撃を緩和することを大前提として作られているのです。このため、範囲を超えた斜め方向からの衝撃や横方向からの衝撃では展開しません。

 横方向からの衝撃で上半身が横方向に倒れてしまっているのに、真正面から勢いよくエアバッグが展開してしまうと、横方向に倒れながら無駄に正面からパンチを受けるような状態になってしまうのです。

横方向からの衝突ではエアバッグは展開しない
横方向からの衝突ではエアバッグは展開しない

 もちろん運転席用エアバッグは横方向に対する衝撃を緩和する能力はありません。自動車の構造や展開ロジックの組み立て方によって多少の違いはありますが、運転席用エアバッグが展開する作動範囲は、先述したようにおおよそ真正面から左右30度程度の範囲内です。

 補足になりますが、横方向からの衝撃に対しては、言うまでもなくサイドエアバッグやサイドカーテンエアバッグが展開します(装備車のみ)。展開判断の基本的な考え方は同じですが、代表的な展開条件は時速約30km以上の速度で自車両と同等クラスの車両が真横から衝突した時と同等か、それ以上の衝撃を受けた時です。

※乗員付近以外の側面に衝撃が加わった場合は展開しないことがあります。

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