エアバッグの前に付く「SRS」の意味を理解しよう:いまさら聞けない 電装部品入門(13)(1/4 ページ)
今や「装備されていて当たり前」の安全システムとなったエアバッグについて、今回から3回に分けて解説する。エアバッグの前に付く「SRS」には、エアバッグの根幹を成す極めて重要な意味があった。
エアバッグは、比較的簡素な装備であることが多い軽自動車でも、当たり前のように装備されるようになりました。しかし、「装備されていて当たり前」という今の地位になるまで紆余(うよ)曲折があったのです。
「エアバッグが装備されているから安全だ」
と考える方もいると思いますが、エアバッグには本来の目的や実際の実力、作動範囲といったものがあります。これらをはき違えてしまっては、エアバッグを正しく扱えない可能性があります。
エアバッグについて説明しようとすると相当な情報量になります。そこで、今回から3回に分けて、エアバッグについて順を追って説明していこうと思います。
エアバッグはシートベルトの補助装置
エアバッグシステムの正式名称は「SRSエアバッグシステム」と言います。
SRSは「Supplemental(補助) Restraint(拘束) System(装置)」の頭文字から取られた略語です。この名前の通り、SRSエアバッグシステムは、乗員を拘束するシートベルトを補助する装置という位置付けになります。
意外と重視されていないことが多いのですが、自動車に搭載されている乗員保護装置で最も大きな役割を果たすのはシートベルトです。そのシートベルトが100%の仕事をしても補い切れない部分を、エアバッグがフォローしているとお考えください。
参考までに、シートベルトの着用有無における死亡率データを挙げておきましょう。そこにはこのような結果が具体的な数値で表されています。
- シートベルト着用時:0.5〜1%
- シートベルト非着用時:7%
シートベルトの着用の有無だけで、約7〜14倍の差が生じていることが分かります。
教習所などで聞いたことがあるかもしれませんが、シートベルトにも正しい装着方法があります。正しい運転姿勢を取っていれば、必然的にシートベルトを正しく装着できるので、ここでは正しい運転姿勢について少しだけ触れておきましょう。
運転席における正しい運転姿勢とは、「シートに深く腰掛けた状態で、シートバック(背もたれ)から背を離すことなくブレーキペダルを目いっぱい踏み込むことができ、ステアリングも楽に操舵できる状態」となります。
ブレーキペダルを踏み込んだ時に膝が完全に伸びきってしまうのはNGです。少し屈曲している状態で踏み込み切れるのが理想的です。さらにこの状態で、可能な限りシート位置を後ろに下げた状態が正しい運転姿勢なのです。
たまに見受けられますが、ステアリングを抱きかかえるような運転姿勢(顔や胸を異常に近づけている状態)は大変危険です。衝突事故などが起きてエアバッグが展開した際に強い衝撃を上半身に直接受けかねません。重大な障害を負ってしまう可能性もありますのでご注意ください。
助手席にエアバッグを搭載している場合、助手席の乗員にも正しい乗車姿勢が求められます。エアバッグから身体を遠ざけておくことが重要になるので、「可能な限りシートを後ろに下げて深く腰かけ、シートバックから背中を離さない」ようにしてください。
たとえ正しい乗車姿勢でもシートベルトを装着していなければ、シートベルトによる乗員保護の効果が得られないどころか、正しくシートベルトを装着していることを前提として作動するエアバッグが凶器になる可能性もあります。
例えば、シートベルトによる拘束が嫌いな方のため(?)に販売されている、シートベルトを引き出した状態で固定できるクリップは要注意です。
衝突によって発生する乗員の上半身を前方向に動かそうとする慣性力を、シートベルトの拘束力によって減速(大を中に)した上で、エアバッグを展開して受け止めて衝撃力を緩和するのが、シートベルトとエアバッグの本来の役割です。
しかし、先述したクリップのためにシートベルトによる拘束力が得られないと、衝突時によって発生した慣性力を持って動く乗員の上半身を、そのままエアバッグを迎え撃つ形になります。とてつもない衝撃を顔面に受けることになるでしょうから、もし使うのであれば命がけになることをよく認識しておいてください。
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