クラウドへ移行する日立の設計開発環境、立ちはだかった3つの課題とは:製造IT導入事例(2/2 ページ)
日立製作所がグループ内における設計開発環境の改革に乗り出している。同社のクラウド型設計業務支援サービス(DSC/DS)を用いて設計開発環境をクラウドに移行したITプロダクツ統括本部
「DSC/DS」の導入に立ちはだかる3つの課題
それでは、日立製作所 ITプロダクツ統括本部ではDSC/DSの導入をどのように進めたのだろうか。
同統括本部では、1990年代末から2000年代にかけてCADを使った設計が2Dから3Dに移行する中で、高度な3D表示に対応する高スペックの設計用端末を多数導入するようになっていた。とはいえ、これらの高スペック端末を維持管理するための運用コストは低減していかなければならない。さらに、増大するセキュリティリスクにも対応する必要がある。
日立製作所 ITプロダクツ統括本部 モノづくり推進室 設計基盤センタ GL主任技師の中村和義氏は「これらに対応すべく以前からDSC/DSの導入計画を進めていた。しかし、幾つか課題が見つかり、それらの解決が見通せるまで一時計画を凍結することになった」と語る。課題は3つ。1つ目は、VDI化した際の3D描画性能が低下すること。2つ目は、設計用端末をVDI化すると1台当たりの運用コストを期待するほど低減できないこと。3つ目は、1つ目のVDI化における3D描画性能低下の課題を解決するのに必要な、設計用端末の64ビット化である。
ITプロダクツ統括本部では構造設計用の3D CADツールとして「SOLIDWORKS」を採用している。当初DSC/DSの導入を検討していた時点で運用していた「SOLIDWORKS 2012」では、VDI化した設計用端末で大規模アセンブリを操作する際などの描画性能が低く、これが1つ目の課題になっていた。しかし、「SOLIDWORKS 2016」に変更することで、VDI化した設計用端末でも実運用が可能なレベルの描画性能を確保できるめどが立ち、これで1つ目の課題は解決の道が開けた。
2つ目の運用コストについては、単に設計用端末をVDI化するという捉え方をせず、DSC/DSによるクラウド化を前提に、導入手続きや維持管理などの人的コストを含めたトータルコストの低減が可能になることに着目。この課題もクリアできた。
3つ目の課題となる64ビット化は、VDI化した端末でSOLIDWORKS 2016の描画性能を確保するのに必要な取り組みだ。これも、DSC/DSによるクラウド化でクラウド上にSOLIDWORKS 2016を実行する64ビットマシンを用意することで、設計者それぞれに64ビット対応端末を用意することなく対応できるようになった。
今後は設計者解析の統合も目指す
これら3つの課題の解決にめどを付けたITプロダクツ統括本部は、2016〜2017年度にかけてVDI化やDSC/DSによるクラウドへの移行プロジェクトを進めた。2018年春からは、SOLIDWORKSによる3Dの構造設計の他、それとひも付く公差解析、電気電子系の2D系の設計データ、PDMクライアントなどがDSC/DSのクラウド上に統合された状態になっている。
中村氏は、DSC/DSの導入効果について「従来だと設計用端末の稼働率は平均で30〜40%程度だった。DSC/DSを導入して設計開発環境をクラウド化することにより、設計用端末の稼働率を70%以上に引き上げることができた。併せて、設計業務の量に合わせてリソースを調整することで、トータルで運用コストを30〜40%削減できている」と説明する。
また、コスト以外に得られる効果も大きいという。日立製作所 ITプロダクツ統括本部 モノづくり推進室 設計基盤センタの和泉守洋氏は「クラウドで設計開発環境を一元管理することで、設計やチェックのルール共通化の取り組みも加速させられる。また、どこからでも設計開発環境にアクセスできるので、フレキシブルな働き方にも活用できる。セキュリティを強化できるのは狙い通りといえるだろう」と利点を強調する。
今後、ITプロダクツ統括本部としてはユーザーの拡大を進めるとともに、設計者解析についてもDSC/DSの適用を広げたい考えだ。「現在は熱流体解析への適用に取り組んでいるところで、その後電磁界解析、構造解析と順次進めていきたい」(和泉氏)としている。
なお、日立グループにおけるDSC/DSの導入は、ITプロダクツ統括本部を含めて19の事業所に広がっている。田中氏は「日立グループ内への先行導入によって、さまざまな知見が積み上がりつつある。今後は、この実績を基に、日立グループ以外の顧客への販売活動を強化していきたい」と述べている。
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