「豊かな環境」が涙液量を制御し、ドライアイを予防・改善:医療技術ニュース
慶應義塾大学は、ストレスの少ない「豊かな環境」がドライアイの予防・改善につながる可能性があることを明らかにした。また、涙液量の分泌制御には、脳由来神経栄養因子(BDNF)が関与している可能性があることが分かった。
慶應義塾大学は2019年3月5日、同大学医学部 教授の坪田一男氏らが、ストレスの少ない「豊かな環境」がドライアイの予防・改善につながる可能性があることを明らかにしたと発表した。どのような環境にいるかという環境因子で涙液量が変化すること、涙液量の分泌制御には脳由来神経栄養因子(BDNF)が関与している可能性があることが分かった。
同研究グループは、これまで環境因子とドライアイの関係について研究を進めてきた。今回の研究では、マウスの行動を制限した状態で、顔に風を当てるストレス負荷を4時間与える実験を実施。その結果、涙液量が有意に減少することを発見した。
さらに、回転車輪などの遊具を備えた広いケージで複数のマウスを飼育する「豊かな環境」を設定。この環境では、より多くの感覚、運動、認知的かつ社会的な刺激を受けられる。ここで飼育したマウスにストレス負荷を実施したところ、狭いケージで単独飼育する通常環境のマウスに比べ、ストレス負荷による涙液量の減少が抑制された。また、通常環境下でストレスを負荷し、涙液量が減少したマウスを「豊かな環境」に移して飼育した結果、通常環境のマウスよりも涙液量の回復が早くなった。
ストレスを負荷した場合、通常環境下では脳のBDNF発現量が減少するのに対し、「豊かな環境」の飼育下ではBDNF発現量の減少は見られなかった。また、BDNFの発現量を抑えたマウスでは、野生型のマウスより涙液量が有意に少なく、涙液分泌の制御には脳のBDNFが関係している可能性があると分かった。
今後、同研究を発展させることで、新たなドライアイの予防・改善方法として「環境づくり」の提案につながることが期待される。
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