ヒトはいつから高度な視覚を得たか、脊椎動物に近縁のホヤの眼で検討:医療技術ニュース
京都大学は、脊椎動物に進化が近いホヤの眼で機能する光受容タンパク質を解析することで、ヒトの高度な視覚機能を支える光センサーがどのように進化してきたのかを明らかにした。
京都大学は2017年5月29日、脊椎動物に進化が近いホヤの眼の光受容タンパク質を解析し、ヒトの高度な視覚機能を支える光センサーがどのように進化してきたのかを明らかにしたと発表した。同大学 理学研究科 名誉教授の七田芳則氏(立命館大学 客員教授)らの共同研究グループによるもので、成果は5月22日に「米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)」電子版に掲載された。
脊椎動物の視細胞に含まれる光受容タンパク質は、脊椎動物の先祖型のものに比べて光情報の増幅効率(シグナル増幅効率)が高いことが知られている。同研究グループは、この性質は光受容タンパク質が分子進化の過程で新たに特別なアミノ酸残基を獲得したためだと発見。しかし、このアミノ酸残基がどうやって先祖型の光受容タンパク質の中で獲得され、機能するようになったかは不明だった。
今回、同研究グループは、脊椎動物と最後に分かれた無脊椎動物であるホヤに注目した。ホヤの幼生は光受容細胞を含む眼点を持ち、そこで機能する光受容タンパク質は明暗による幼生の行動の変化に関わっていることが知られている。このホヤの光受容タンパク質を解析したところ、特別なアミノ酸残基を既に獲得していることが分かった。さらに、無脊椎動物の光受容タンパク質でこれまで機能していたアミノ酸残基も同時に機能していることを発見した。
そこで、新たに獲得したアミノ酸残基をなくした変異体を作製すると、無脊椎動物の光受容タンパク質と同様の光反応を示した。逆に、従来機能していたアミノ酸残基をなくした変異体では、脊椎動物の光受容タンパク質と同様の光反応を示すようになった。一方でこの変異体でも、光シグナルの増幅効率は脊椎動物のレベルまでは大きくならず、タンパク質構造のさらなる変化が必要であることも分かった。
これらの結果から、ホヤの光受容タンパク質は、進化の過程でシグナル増幅効率を上げるために必要な新規のアミノ酸残基を獲得しているが、完全な意味で脊椎動物の光受容タンパク質のようにはなっていないことが判明した。ホヤは、ヒトのように発達した眼は持たないが、分子レベルでは高度な視覚機能を進化させるための準備を始めており、脊椎動物の祖先からヒトの眼の高度な機能ができる過程のmissing linkを埋めるものといえる。
ヒトを含む脊椎動物は、カメラに似た高度に発達した眼を持ち、明るい場所でも暗い場所でもものの形や色を見ることができる。眼には、外からの光を受容して神経の電気応答に変換する視細胞が含まれ、視細胞では光を受容するための光センサー(光受容タンパク質)が機能している。近年、眼の形態的違いだけでなく、眼の中で機能する分子(タンパク質)に着目した研究も進んでいる。
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