視覚訓練に伴う脳の変化についての論争に決着をつけた新技術:医療技術ニュース
国際電気通信基礎技術研究所は、ブラウン大学と共同で、脳イメージング法と人工知能技術を組み合わせた技術を開発し、視覚の訓練に伴う脳の変化について、新たな発見をしたと発表した。
国際電気通信基礎技術研究所(ATR)は2016年6月14日、ブラウン大学と共同で、脳イメージング法と人工知能(スパース機械学習)技術を組み合わせた技術を開発し、視覚の訓練に伴う脳の変化について、新たな発見をしたと発表した。成果は同月13日に、英神経科学誌「Cerebral Cortex」オンライン版に掲載された。
長期の訓練による視覚能力の向上と、それに伴って起こる脳の変化は、知覚学習と呼ばれている。知覚学習のメカニズムについては、主に、視覚刺激への感度向上に対応して脳内変化が起こるとする感度向上説と、視覚課題の習熟に対応して脳内変化が起こるとする課題習熟説について、議論されてきた。
同研究グループは、2つの説の特徴を併せ持つハイブリッドモデルを提案。脳イメージング法と人工知能技術を組み合わせたアプローチによって、このモデルの妥当性を実証した。知覚学習がこのモデルに従って起こるとしたら、脳内に視覚刺激による感度向上に対応する領域と、課題の習熟に対応する領域が見られることになる。
これらの脳領域を同定するため、まず視覚の運動刺激を検出する課題を出し、その訓練の前と後に、被験者の脳活動をfMRI(機能的磁気共鳴画像法)によって測定した。そして、人工知能(スパース機械学習)技術によって脳活動パターンを解析した。さらに、従来の脳活動の空間パターンを調べる解析技術を拡張し、時間パターンも考慮した、両方を効率的に分析可能な技術も開発した。
解析の結果、V3Aと呼ばれる、視覚運動刺激に特に強く反応する視覚領域で、視覚の感度向上に対応する脳活動パターン変化が見られた。また、V1と呼ばれる比較的低次の視覚領域と、頭頂間溝と呼ばれる高次認知過程に関係する領域において、課題習熟に対応する脳活動パターン変化が見られた。
つまり、知覚学習の結果、脳の異なる領域にそれぞれ異なる種類の脳活動パターン変化が起こったことが分かった。このことから、今回用いた視覚課題に関して、視覚運動刺激に対する感度を向上させるにはV3Aの機能を高める訓練が、課題の習熟には頭頂間溝やV1の機能を高める訓練がそれぞれ必要であることが分かる。
今回の研究で妥当性が実証されたハイブリッドモデルは、知覚学習研究分野におけるこれまでの知見を統合的に説明することができ、これまで2つの説の対立によって停滞していた同分野の進展に貢献する。また、同研究の成果は、記憶や運動学習などさまざまな学習メカニズムの解明や、視覚能力低下を防止するための訓練方法開発などに役立つことが期待されるとしている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 人工知能は製造現場でどう役に立つのか
人間の知的活動を代替するといわれる人工知能が大きな注目を集めている。ただ、製造現場で「使える」人工知能は、一般的に言われているような大規模演算が必要なものではない。「使える人工知能」に向けていち早く実現へと踏み出しているファナックとPFNの取り組みを紹介する。 - 第4次産業革命って結局何なの?
製造業の産業構造を大きく変えるといわれている「第4次産業革命」。しかし、そこで語られることは抽象的で、いまいちピンと来ません。本連載では、そうした疑問を解消するため、第4次産業革命で起こることや、必要となることについて分かりやすくお伝えするつもりです。第1回目はそもそもの「第4次産業革命とは何か」を紹介します。 - 製造業IoTに新たなデファクト誕生か、ファナックらが人工知能搭載の情報基盤開発へ
ファナックやシスコシステムズら4社は、製造現場向けのIoTプラットフォームとして「FIELD system」を開発し、2016年度中にリリースすることを発表した。競合メーカーの製品なども接続可能なオープンな基盤とする方針。製造業IoTでは各種団体が取り組むが、ファナックでは既に製造現場に350万台以上の機器を出荷している強みを生かし「現場発」の価値を訴求する。 - 熟練技術者のスキルを8時間で獲得、ファナックが機械学習ロボットを披露
ファナックは「2015 国際ロボット展」で、Preferred Networks(PFN)と提携して開発している産業用ロボットへの機械学習の適用事例を披露した。機械学習により熟練技術者が数日間かかるティーチングの精度を、8時間で実現したという。 - 製造業で人工知能はどう使うべきなのか
日本IBMとソフトバンクは、自然対話型人工知能「ワトソン(Watson)」の日本語版の提供を開始する。自然言語分類や対話、検索およびランク付け、文書変換など6つのアプリケーションをサービスとして展開する。